タックス・プロビジョンの計算は、監査や税務に携わる会計士に限らず、企業会計担当者にも関心度の高い業務です。しかし、会計に精通した専門家でさえ、なかなかとっつきにくく、理解のための資料や教材の不足も否めません。そもそも、「プロビジョン」という言葉自体をご存じでない会計士の方々も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。
タックスプロビジョン(Tax Provision)とは、年度末財務諸表上で見込み法人税費用を引き当てることです。日本の財務諸表上でいう、法人税等調整額の部分として表示される部分も含んだ税額見積もり計算のことを言います。アメリカの連邦及び州法人税申告書の申告期日は、年度末より3ヶ月目の15日となっているところが多く、時間的に確定税額を得られないまま年度末財務諸表の監査となる場合も少なくありません。その際に、連邦及び州、ローカル法人税の見込み計上金額を見積もる目的で、申告書作成前の臨時的作業が必要となるのです。
タックスプロビジョンでは、当年度の税引当額を見積もると同時に、繰延計上分の税引当額も計算します。繰延分とは、税務上加減算計上で税務上一時差異(Temporary Difference)となり、次年度以降に戻入れされる分のことです。戻し入れのできない、永久差異(Permanent Difference)の部分ではありません。タックスプロビジョンの計算では、税効果会計上の繰延税金資産または負債と繰延税金費用または利得(Benefit)をそれぞれ計算し、当年度分の税額と共に財務諸表上に反映させます。計算はワークシート上で行われ、申告書または申告書作成システム上では行われません。金額は概算となりますが、後に作成されることになる申告書上の確定税額になるべく近い金額になるよう、ある程度正確に計算する必要があります。次に挙げられる各項目の計算を行います。
費用科目(Expense items)
1.当年度税金費用-法人税(連邦、州、ローカル) Current Corporate Income Tax Expense(Federal, State, Local)
2.繰延税金費用-法人税(連邦、州、ローカル) Deferred Corporate Income tax Expense(Federal, State, Local)
貸借対照表科目(Balance sheet items)
1.前払税金-法人税(連邦、州、ローカル) Prepaid Corporate Income Tax (Federal, State, Local)
2.未払税金-法人税(連邦、州、ローカル) Corporate Income Tax Payable (Federal, State, Local)
3.繰延税金資産(連邦、州、ローカル) Deferred Income tax Asset (Federal, State, Local)
4.繰延税金負債(連邦、州、ローカル) Deferred Income tax Liability (Federal, State, Local)
上記の繰延税金は、貸借対照表科目の期首及び期末の差異が繰り延べ税金費用(利得)となります。費用がマイナスとなった場合は利得(Benefit)となり、当期損益にプラスとなります。前払税金は予定納税で税金を納付するときに計上する科目で、年度が終わり、当年度税金費用が計上される申告書の期日(延長申請の期日)までに残高が調整されます。負債科目である未払税金と資産科目である前払税金を併用しても良いですが、前払税金科目だけで管理すると、科目残高の整理がしやすい面もあります。
税引当のために、準備しなければならないワークペーパーは次の8つとなります。
1.税引当仕訳 Tax Provision Journal Entries
2.税引当要約-連邦及び州 Tax Provision Summary (FED & States)
3.連邦及び州の課税所得計算表 FED & State Taxable Income Calculation Worksheet
4.連邦及び州の繰延税金 FED & State Deferred Taxes
5.実効税率計算表 Effective Tax Rate Calculation Worksheet
6.所得税変動表-ロールフォーワード表 Income Tax Movement Schedule (Roll-forward Schedule)
7.その他
8.サポート資料
上記項目1は計算されたタックス関連の科目残高を最終的に修正する仕訳で、すべての科目がバランスするようにします。項目2は、財務諸表上に示す必要があるときに要約としてまとめておくと便利なために準備されます。あくまでも、財務諸表関連に必要なワークペーパーとなります。項目3は、申告書作成時と同じく課税所得の計算を行います。できるだけ正確に計算して、申告書作成時に二度手間とならなないように心がけます。項目5の実効税率は、繰延税金計算用に、連邦及び州の税金が課税所得に対してどれだけの率となっているかを概略的に計算する率です。項目6は、前払税金、未払税金と当年度の税金の計算を連邦及び各州ごとに見られるようにするワークペーパーで、期首から期末への推移をわかりやすくしたものです。
タックスプロビジョンを行う際の計算シートの見本と手順及び理論に関する詳細は、「アメリカ法人税実務マニュアル(米国法人税申告書の書き方)」をご参照ください。また、本書「アメリカ法人税実務マニュアル 」の別冊として「アメリカ法人税実務マニュアル・別冊 – タックス・プロビジョン詳説」を準備致しております。タックス・プロビジョンの解説箇所を抽出し、お手頃な価格でのご提供です。作業手順をワークシートごとに詳解しておりますので、計算内容のご理解と共に、背景にある理論のご理解にも最適です。当別冊には、マイクロソフト・エクセル・ファイルで表計算シートも付録添付致しております。上でご説明した6種類のワークシートです。各々の表計算シートは連関してリンクでつながっており、計算式がマス目ごとに入っておりますので、実際の実務上での計算にもお役立ていただけます。業務遂行時に同 じパソコン画面上で解説と共に見ていただけるため、とても便利です。ご購入の詳細につきましては、当ウェブサイトの「アメリカ法人税実務マニュアル」ご購入案内の箇所をご参照ください。