日本から投資をして、米国内に不動産を保有する際には、当該不動産の保有主体となる米国内事業体の形態が重要となります。事業体の形態によっては、米国内の課税の形式が異なるからです。「米国事業体 - 会社の設立」のセクションでもご説明差し上げておりますが、日本から米国不動産に投資する際にも、以下の各アメリカ事業体が考えられます。
1.個人事業主(Sole proprietorship)
2.パートナーシップ(Partnership)
3.リミテッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC)
4.外国法人(Foreign corporation)
5.米国法人(U.S. corporation)
6.不動産投資信託=リート(Real estate investment trust=REIT)
以下、日本居住者(米国非居住者)が米国の不動産へ投資することを主に前提とし、その上で各事業体による投資のケースについて検討します。所得が日本へ帰還送金される際も含めて、米国税務留意点について概説致します。(注:あくまでも一般概論になりますので、個別ケースについては、くれぐれも米国公認会計士にご相談されてください。当事務所においてもご依頼・ご相談を承っておりますので、ご連絡ください)
1.個人事業主(Sole proprietorship)
賃貸・売買取引の解説箇所においても、既に若干ご説明差し上げておりますが、個人事業主の方が直接アメリカの不動産に投資される場合も、最初のステップは、稼得される所得を「実質的に米国内事業や取引に関連する所得=米国事業実質関連所得(Income effectively connected with a trade or business in the United States)」とするか否かについて判断されることです。
個人事業主として、米国内で不動産事業を相当規模で行った場合(Business activity is material)には、米国事業実質関連所得として、米国での非居住者個人所得税(Form 1040NR)の申告納付が必要になります。また、米国非居住者が個人所得税申告をする際には、内国歳入法上871条(d)項の規定に従い、建前上はあたかも米国事業実質関連所得としての申告を選択するということになります。
一方、稼得所得が米国事業実質関連所得でなければ、賃貸所得については定額・確定・年次・定期所得( U.S. source fixed or determinable annual or periodical (FDAP) income)となり、源泉所得税(原則グロス賃貸収入受取額の30%)の源泉徴収となります。賃借人(マネージメント会社)が税金を源泉徴収し、申告納付します。不動産売却益については、FIRPTAの該当源泉徴収税率(条件により、契約金額や公正市場価値の0%、15%、10%)による源泉所得税の源泉徴収となり、個人事業主は当該源泉所得税が差し引かれた額を受け取ることになります。物件の買主が源泉徴収義務者となり申告納付します。(注:FDAP所得の詳細については「米国の会計、米国の税務」のセクションの源泉所得税の箇所をご参照ください)
上記の2つの納付方法(所得税・法人税納付と源泉所得税納付)では、通常は源泉所得税よりも個人所得税・法人税での納付を選択した方が米国での納付税金は圧倒的に少なく済みます。所得税・法人税申告では課税所得計算上で減価償却費を含む各種経費を控除できるのに対し、源泉所得税納付では、グロス受取額に対し課税されて経費控除が出来ないからです。
従いまして、源泉所得税を納付した後に、取られ過ぎた源泉所得税の還付申請のために、結局、米国個人所得税・法人税申告を行うケースが多くなります。もちろん、米国での申告納付あるいは米国で源泉徴収をされた後に、日米いずれかの個人所得税申告書上で外国税額控除による還付申請となりますが、外国税額控除は満額控除可能であるとは限りません。後々の税金還付申請のための米国個人所得税・法人税申告に苦慮されるのであれば、当初から米国税務申告を計画した方が良いかもしれません。
なお、個人事業主の日本居住者であっても、米国で永住者(Permanent resident)や居住外国人(Resident alien)としての居住条件を取得できれば、米国非居住者としてではなく、米国居住者としての税務申告となり、源泉所得税を差し引かれることはなくなります。ただし、その際には、居住者である旨の証明を買主に提供する必要がございます。
2.パートナーシップ(Partnership)
米国のパートナーシップを設立して、当該パートナーシップに米国不動産を保有させる投資形態です。パートナーシップの設立には、2人以上の出資者(メンバーであるパートナー)が必要になります。1人の出資者のみでは、パートナーシップは形成できません。
米国のパートナーシップはパススルー(導管的な)事業体のため、それ自身が納税主体とはなりません。資本拠出(Contribute)したパートナーレベルの事業体が納税主体となります。パートナーシップとしての申告書(Form 1065)提出義務はございますが、パートナーシップ自体に納税義務はございません。各パートナーは、所得証明の様式K-1(Form 1065) をパートナーシップから受け取り、それを基に申告納付します。米国のパートナーシップは、個人、パートナーシップ、LLC、米国法人、外国法人など、ほとんどの事業体がパートナー(メンバー)となれるため、当該パートナー各々レベルでの税務申告義務が適用されます。
パートナーシップ・メンバーのパートナーが日本居住者(米国非居住者)の場合、自身の米国事業実質関連所得稼得の如何に係らず、パートナーシップの所得が米国事業実質関連所得であれば、パートナーに源泉所得税負担の義務が生じます。内国歳入法1446条に規定されていて、利益分配をする際の支払者(パートナーシップ)には源泉徴収義務と申告納付義務も発生します。パートナーが個人の場合は37%、外国法人の場合は21%の源泉徴収税率が各々適用されます。支払者となるパートナーシップ側では、外国源泉徴収に関する申告書(Form 1042)の提出と外国源泉徴収に関する明細書(Form 1042-S)の発行が必要になります。
パートナー(個人・法人)レベルで米国事業実質関連所得(パートナーシップからの所得)が稼得されれば、本来、米国個人所得税・法人税の申告納付が原則です。しかし、多くの米国非居住者が米国における税務申告を正しく行えていないという状況が当該源泉徴収義務規定の背景として否めません。
また、パートナーシップの所得が米国事業実質関連所得でない場合、当該所得をパートナーに分配する際に、米国源泉の定額・確定・年次・定期所得( U.S. source fixed or determinable annual or periodical (FDAP) income)となります。各パートナー(個人・法人)が源泉所得税に負担義務がありますが、源泉徴収税率は30%となります。支払者となるパートナーシップ側では、外国源泉徴収に関する申告書(Form 1042)の提出と外国源泉徴収に関する明細書(Form 1042-S)の発行が必要になります。
個人事業者の箇所でもご説明致しましたが、日本居住者を含む米国非居住者のパートナーレベルでの源泉所得税納付は、原則グロス課税です。すなわち、個人所得税・法人税申告のネット課税(経費控除可能申告)による税金納付額よりも著しく高額納付になります。後々の還付申請のための各パートナーレベルでの米国税務申告については、事前に計画される必要がございます。
さらに、外国人パートナーの米国事業実質関連所得についての予定納税見積額及び実際の税額が$1,000未満の場合、内国歳入庁への源泉所得税の納付が必要なくなります。ただし、パートナーシップの所得が唯一当該パートナーシップの活動からのものであり、それを外国人パートナーがパートナーシップに証明できることが条件となります。
なお、米国のパートナーシップは、税務上だけ法人としての扱いを受ける選択ができます。その場合には、利益の分配(Distribution)の際にも、米国法人または外国法人(日本法人など)としての扱いを受けるため、配当や利子についての国際間の源泉所得税については、注意を要します。
3.リミテッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC)
米国のLLCを設立して、当該LLCに米国不動産を保有させる投資形態です。LLCもパートナーシップと同じく、パススルー(導管的な)事業体のため、LLCに対して資本拠出(Contribute)した方々のレベルの事業体が申告納付主体となります。米国のLLCは、個人、パートナーシップ、LLC、米国法人、外国法人など、ほとんどの事業体が資本拠出メンバーとなれるため、当該拠出者レベルでの税務申告義務が適用されます。LLCのメンバーが1人の場合は、LLC自体に申告義務は無く、除外事業体(Disregarded entity)となり、LLCの唯一のメンバー(Single member)が申告納付主体となります。(注:個人、米国法人、外国法人の各箇所をご参照ください)LLCのメンバーが2人以上の場合は、自動的にパートナーシップと同じ扱いになります。(注:パートナーシップの解説箇所をご参照ください)
各メンバーがパートナシップのパートナーとして扱われた場合、所得証明の様式K-1(Form 1065) を受け取り、それを基に申告納付をします。メンバーが日本居住者(米国非居住者)の個人であり、かつ所得が米国事業実質関連所得であれば、支払者は源泉徴収義務があり、パートナーシップの箇所で述べた源泉徴収税率が適用され、同様の納税免除措置もございます。また所得が米国事業実質関連所得でない場合も、パートナーシップと同様の措置となります。
なお、米国のLLCは、パートナーシップと同じく、税務申告上だけ法人としての扱いを受ける選択ができます。その場合には、利益の分配(Distribution)の際にも、米国法人または外国法人(日本法人など)としての扱いを受けるため、配当や利子についての国際間の源泉所得税については、注意を要します。
4.外国法人(Foreign corporation)
日本法人のように、既に日本で設立されたかどうかに係らず、米国外の法人は外国法人となります。当該外国法人が直接米国不動産を取得した場合、当該不動産からの所得については、米国事業実質関連所得(Income effectively connected with a trade or business in the United States)として扱わない源泉所得税課税(注:契約金額などの総所得額に対して源泉徴収税率30%のグロス課税)か、あるいは実質関連所得として扱う米国外国法人税課税(注:各種経費計上後の課税所得に対するネット課税)かのいずれかの選択(内国歳入法882条(d)項規定の選択)となります。
米国事業実質関連所得となった場合には、経費などの控除後の課税所得に対し、一律21%の法人税率で課税されます。米国外国法人所得税申告書(US income tax return of a foreign corporation=Form 1120-F)の申告納付をします。さらに、繰越利益の中から日本居住者である外国株主への利益分配として配当拠出する際には、支店利益税(Branch profit tax=BPT)として、当該配当金額相当分に対し30%の税率で課税されます。ただし、日米租税条約第10 条第10項の規定により5%に軽減されています。また、特定の状況に該当する場合(株式上場法人や個人保有の法人等)は支店利益税の支払いが免除(徴収税率0%)されている場合もございます。その際には、租税条約上の恩典享受の旨、該当申告様式を添付して開示しなければなりません。(注:個別のケースで異なります)
外国法人が株主に配当金を拠出する際には、当該配当には源泉徴収などの義務は無く、その他の米国による課税もありません。しかし、外国法人が株主からのローン等を米国不動産事業のために借り入れた場合には、支払利子に対する源泉所得税の納付は必要になります。その際には日米租税条約の定めにより、10%の源泉徴収税率が適用されます。
さらに、米国事業のために借り入れたローンの支払利子については、内国歳入規則1.882-5に規定されており、米国事業実質関連所得に割り当てられる分のみ課税所得から控除可能とされています。全世界の資産と負債残高から米国事業の割合を算出し、米国事業実質関連所得に該当する分の支払利子額を算定します。計上された全体の支払利子のうち、当該米国事業該当分を差し引いた支払利子額は、超過利子(Excess interest)として原則的には30%の税率で課税されます。ただし、必要な開示申告を行えば、日米租税条約第11条第2項の規定により税率が10%に軽減されます。米国の不動産購入の際に、株主から直接、あるいは株主保証で借り入れた際には、外国法人が計上できる支払利子は限定されるので、注意が必要です。
外国法人が直接米国に投資して不動産を保有し、その後売却益を得たとしても、通常はFIRPTAの 適用はございません。ただし、当該外国法人が米国不動産保有法人(US Real Property Holding Corporation=“USRPHC”)に該当する場合、当該外国法人の株式が処分された際には、FIRPTAの適用が出て参ります。当該外国法人の株式を購入取得した方には、FIRPTAの源泉徴収義務(条件により、0%、10%、15%、の源泉所得税)が課されるということになります。(注:詳細は当セクションの「アメリカ不動産売買取引と米国税制」の箇所をご参照ください)また、外国法人が保有している米国内不動産の権利(Interest)を当該外国法人の株主に分配(Distribute)した場合には、源泉所得税が徴収税率21%で源泉徴収されます。
外国法人は、FIRPTA適用を避けるため、内国歳入法897条(i)項による外国法人の米国法人扱い選択(Election)により、FIRPTA目的のみ米国法人として扱われることが可能となっています。その際には、税務当局である内国歳入庁への各種申請と証明書受領が必要となります。
5.米国法人(U.S. corporation)
日本から出資して米国法人を設立し、不動産を保有させた場合、後述のリート(REIT)を除き、米国内の事業所得として、一律21%の法人税率で課税されます。もちろん、米国法人所得税申告書(US Corporation income tax return = Form 1120)の申告納付をします。この申告納付義務については、賃貸からの所得や不動産売却益についても変わりありません。
例外としては、保有資産の50%以上が米国不動産である米国法人の場合で、当該法人は米国不動産保有法人(US Real Property Holding Corporation=“USRPHC”)として扱われ、当該不動産保有法人の株式を処分した場合には、FIRPTAの源泉徴収義務(条件により、0%、15%、10%の源泉所得税)が課されます。ただし、株式市場上場株式の保有割合が5%以下である場合には除外するという日米租税条約上の規定があります。該当する場合は条約の条項について詳細検討が必要です。(注:詳細は当セクションの「アメリカ不動産売買取引と米国税制」の箇所をご参照ください)
米国法人の株主が日本居住者(米国非居住者)の場合には、法人の利益分配としての配当は、日米租税条約第10条の規定に則り、米国法人側に源泉所得税の源泉徴収義務があります。2019年に批准された新条約上は、持分割合50%以上の親子会社間の場合には免税(源泉徴収税率0%)、持分割合10%以上50%未満の親子会社間の場合には5%、またポートフォリオ配当については10%の源泉徴収税率が各々適用されます。
また、米国法人が日本の出資者から借入をした場合の支払利子については、日米租税条約第11条の規定に則り、10%の源泉徴収税率が適用されます。関係者間でローンを組むケースが多いため、米国法人が日本の出資者に対して利子を支払う際には、源泉徴収義務と申告納付義務があるため、留意点としては重要です。
ただし、外国法人が課税される支店利益税(BPT)は、米国法人の場合課税されません。外国法人税のBPTの代替課税として、源泉所得税があると考えられます。一般的には、米国法人の方が米国税制上の課税措置は緩やかと考えられます。(注:個別案件により異なるため、各々検討が必要です)さらに、法人が 緊密保有法人(Closely-held corporati=CHC)の場合は、個人保有法人(Personal holding companies=PHC)として扱われ、配当拠出後の未分配所得に対して20%が課税されます。
日本から出資される際には、最終的な保有が5人以下の個人による場合には注意が必要です。日本法人やその他の米国法人がストラクチャーの中に入っていたとしても、間接的な保有が5人以下の個人であれば個人保有法人の扱いとなります。(注:PHCの詳細については、当ホームページの「米国事業体、会社の設立」のページの各事業体解説のセクションでご説明差し上げております)
以上のように、日本から出資して米国に法人を設立する際には、上記の利益分配時の源泉徴収義務や保有形態に留意しなければなりませんが、日米の各法人は、居住地で各国の源泉所得のみ課税となるため、二重課税とはなりません。
6.米国不動産投資信託=米国リート(US Real estate investment trust=US REIT)
米国リートは、アメリカの不動産に特化して投資する事業体で、次のタイプがございます。
● 財産型リート(Equity REIT)
● 住宅ローン型リート(Mortgage REIT)
● 複合型リート(Hybrid REIT)
財産型は、不動産を保有して賃貸し、賃貸収入を得たり、売却益から譲渡所得や配当を得たりするタイプです。住宅ローン型は、住宅ローン保有によって利子を受け取ったり、住宅ローン担保債券に投資するタイプです。複合型は、財産型と住宅ローン型を両立させたタイプです。
米国リートは通常は法人ですが、適格条件に合致すれば、所得については非課税となる半面、合致しなければ、法人として課税されます。一般的な法人と比較して最も顕著なリートの相違点は、株主に対する配当が税務上、課税所得計算上で控除できることです。リートの賃貸所得は、諸経費と相殺して事業所得となります。
日系企業や日本人投資家の方が直接米国にリートを設立することはまれですが、リートの株主として株式持分保有をすることは多くなっています。
米国リートの適格条件としては、以下が挙げられます。
● 総資産の75%以上を不動産、現金または米国債に投資する。
● 総所得の75%以上を賃貸所得、住宅ローン利子、及び不動産売却益から得る。
● 毎年、課税所得の90%以上を株主の配当として拠出する。
● 設立後1年以内に100人以上の株主がいる。
● 5人以下の個人によって50%を超える株式が保有されていない。
日本から米国リートに出資した場合、株主として配当を得ることになりますが、通常の配当は、米国事業実質関連所得の扱いを受けず、源泉徴収税率30%の源泉所得税課税となります。米国リートによる不動産売却益などのキャピタル・ゲインについては米国事業実質関連所得の扱いを受け、さらに源泉徴収税率21%の源泉所得税が源泉徴収されます。ただし、通常の配当については、必要な開示申告を行った場合、日米租税条約による源泉徴収税率10%への軽減が可能です。
また、株式市場に公開されている米国リート法人株式を持分割合5%以下で保有している場合で、当該リートが米国内統制(Domestically controlled)法人の場合には処分時の非課税特例があります。(注:米国内統制法人とは、50%以上の株式持分を米国居住者が保有している法人)米国非居住者が保有米国内統制リート株式を処分した場合、通常、米国では非課税となります。一方、外国統制(Foreign controlled)法人(注:外国統制法人は、50%以上の株式持分を米国非居住者が保有している法人)の場合、当該外国統制リート株式の処分益については、米国税務申告要の米国事業実質関連所得となり、米国税務申告が必要になります。
投資の際には、必要な開示申告や所得税務申告を行う必要があります。