営利法人と非営利法人
米国法人はアメリカ国内で設立される法人です。次の2つに大別されます。
1.営利(Profit)法人
2.非営利(Non-profit)法人
非営利法人(非営利団体)は、芸術・スポーツや慈善活動などを行う事業体で、資金の集め方の違いにより公共慈善団体(Public charity)と私設財団(Private foundation=PF)に別れます。Public charityは、公的な募金からのみ資金を集める団体。PFは企業や個人の出資によって資本金(出資金)として資金を募る団体です。
いずれも内国歳入法501条(c)項に規定のある団体で、慈善(Charitable)、宗教(Religious)、教育(Educational)、科学(Scientific)、文学(Literary)、治安の保護(Testing for public safety)、アマチュア・スポーツ競技の振興(Fostering amateur sports competition))、児童虐待防止(Preventing cruelty to children)、動物虐待防止(Preventing cruelty to animals)などの活動を行う団体となります。法人税が非課税措置となっていますが、当該非課税団体であるかについては、内国歳入庁(Internal revenue service=IRS)が提供する非課税団体検索(Tax exempt organization search)というウェブサイトで検索できます。
日系企業や日本人出資者が設立するのは主にPFで、連邦への法人設立登記と連邦雇用者番号(EIN)を取得後、各州における登記と共に、公共媒体による告知等を済ませれば活動を開始できます。
C法人とS法人
営利法人としては、株主になる資格の違いから、主に次の2つに大別されます。
1.C法人(C corporation)
2.S法人(S corporation)
C法人は、内国歳入法のSub-chapter C項に規定されていて、一般的にどのような事業体でも株主になれます。個人、パートナーシップ、LLCやC法人、S法人等も含まれ、外国人(非居住者)も含め、株主となれます。一方、S法人は、内国歳入法のSub-chapter S項に定められた「S」が小規模法人(Small business corporation)の略字で、米国市民(US citizen)、米国永住権者(Permanent resident)、米国市民か永住権者がメンバーのLLCなど、自然人(Natural person)のアメリカ人が直接・間接的に株主であることが条件です。また、C法人は株主の人数に制限はありませんが、S法人は、100人以下の株主に限定されます。
S法人となるには、S法人を選択する旨、全株主の合意が必須条件です。また、「小規模法人による選択(Election by a small business corporation - Form 2553)」という様式のIRSに対する申請書提出が必要になります。S法人は、パートナーシップや一部のLLCと同じくパススルーの(導管的な)事業体で、課税されるのはS法人の株主レベルとなり、各株主は、S法人から提供される、持分割合に応じた所得証明書(Schedule K-1 (Form 1120-S))を基に自身の税務申告書で所得を申告し、納税します。
以上のことから、日系企業や日本人投資家にとって、S法人は比較的設立しにくく、米国に事業展開する上で適した事業体とは言えないかもしれません。一方、C法人は、外国人であっても株主になれるため、日本法人の米国現地法人子会社や日本人投資家の出資法人として頻繁に設立されています。
C法人の特殊な形態
C法人には、株式保有状況や法人の業態に応じて数種類の個別形態があり、法務上や税務申告上異なる恩典や追加的な課税などの規制を受けます。以下は代表的な個別形態です。
1.個人保有会社(Personal holding company=PHC)
2.個人役務法人(Personal service corporation=PSC)
3.専門役務法人(Professional corporation=PC)
まず上記項目1のPHCについてです。
PHCは、発行済株式の50%を超える持分が5人以下の個人(Individual)によって直接・間接的に保有されていて、かつ、配当(Dividend)、利子(Interest)、使用料(Royalties)、賃貸料(Rent)などの受動的所得(Passive income)が全体の所得の60%を占める場合、通常の法人税率21%に加え、配当拠出後の未分配所得(Undistributed income)に対し、PHC taxとして20%が追加的に課税されます。これは、個人投資家が米国法人設立によって低率の法人税率(一律21%)適用を目途するため、当該スキームによる課税回避を防ぐためにIRSが申告納税を義務付けているからです。(注:米国個人所得税累進税率の最も高い税率は39.6%)
日本からの投資を考える際、外国法人(日本法人)はPHC taxから免除されていて、米国内で登記された日本法人は、当該追加的課税はありません。これは、外国法人に対しては支店利益税(Branch profit tax)という税率30%の課税があるからです。しかし、日本人個人がお1人でまたは5人以下のグループで米国に投資される際には注意が必要です。例えば、日本人の個人の方が出資した日本法人が米国法人を設立し、当該米国法人が米国で受動的所得を得たとしても、これはあくまでも間接的に米国法人株式を個人が保有することになり、当該米国法人はPHC taxの課税対象になります。従いまして、米国の資産(事業法人、有価証券、不動産)への投資や特許・商標などの米国企業への貸与、不動産の賃貸所得など、受動的所得がほとんどの米国法人を設立した場合には、株主数やPHC tax課税に対する対策が必要になります。
次に上記項目2のPSCについてです。
PSCは、出資従業員(Employee-owner)が株主として自ら事業を運営し、医療(health)、法律(law)、建築(architecture)、会計(accounting)、保険数理(actuarial science)、エンジニアリング(engineering)、コンサルティング(consulting)、舞台芸術・音楽(performing arts)などの専門業種に携っていることが条件です。出資従業員は議決権株式(Voting stock)の少なくとも10%を保有し、PSCの提供役務の20%を超える役務を提供していることも必要です。
PSCは、個人事業主やパススルーの事業体と異なり、専門職の方々に様々なメリットがあります。特に、出資者(株主)が亡くなっても事業体自体が継続しますし、出資額に応じた有限責任になります。また、税務上は、従業員に対する健康保険や生命保険を非課税で提供できますし、傷害保険や扶養補助やその他事業上の経費も幅広く計上できます。法人のため、401Kなど確定拠出年金の積立上限額も高く設定できます。
最後に上記項目3のPCについてです。
PCは、専門職の方々が事業に携ることについてはほぼPSCと同義ですが、こちらは各州が法的に出資者(株主)の債務について規定している事業体です。PCは専門職のプロフェッショナルが株主として集まって顧客に対して高度なアドバイスを提供するわけですが、本人以外の責めで生じた事業上負債の負担について制限し、出資者(株主)一人一人の資産を守るという事業体です。弁護士や医師の方々などが日々仕事をする上で、安心できる事業体です。
米国法人は、非営利法人も含め、各州に定款(Article of incorporation)と共に設立登記手続きを行います。また、パートナーシップやLLCと同様に、事業所在地のある各州政府に対し、法人名及び事業名(Trade name)を登録し、登録証明書(Registration certificate)を取得します。また、事業上の通称名(Doing business as=DBA)がある場合には、それも登録します。さらに、連邦政府(Federal government)に対して雇用者番号(Employer identification number=EIN)を申請すると同時に、州の税務当局には、売上税(Sales tax)などの税務登録が必要になります。法人の登録とは別の登録手続きとなっている州も多く、登録各州のおける手続き詳細は確認要です。
米国法人は、営利法人の場合、連邦法人税の申告納付を行います。C法人は連邦法人税申告書(Form 1120)をIRSに提出します。S法人は、連邦S法人税申告書(Form 1120S)を提出しますが、パススルー事業体のため納税は無く、S法人から各株主にSchedule K-1(Form 1120S)を提供し、各株主が当該持分所得に応じた申告納付を株主自身の税務申告書上で行います。PHC、PSC、PCなどは、特定の様式を添付したり、法人税申告書の該当する箇所に正しく記入する必要がございます。
非営利法人の財団法人は法人税は非課税ですが、申告書は毎年連邦と各州に提出する必要がございます。連邦の申告については、Public charityは、所得税非課税団体申告書(Return of Organization Exempt From Income Tax, Form 990)を、PFは私設財団申告書(Return of private foundationを, Form 990-PF)を期日までに提出して納税額がある場合には納付します。
米国法人は、連邦や各州への申告上、子会社も含めた連結ベースでの申告も可能で、その場合には、しかるべく正しい申告様式と情報開示が必要です。
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