顧客への請求書発行
Issue Billings





アメリカでは、次の事項を明確にして顧客向けの請求書を発行します。


1.日付

2.顧客名と住所

3.自社の連絡先と担当者名

4.商品名と内容

5.請求書番号(Invoice number)

6.売上税額(Sales tax)

7.支払条件(Terms of payment)

8.発送条件(Shipping terms)


請求の際の支払期日をモノやサービスが提供されてから30日以内に指定することが一般的ですが、例えば10日以内に支払いがされた場合には、2%の値引き(Discount)を提供するなど、条件設定をする場合、支払条件として明記する必要がございます。また、発送料としてFOB(Free on boardまたはFreight on board)など、誰が運送費を負担するかについての発送条件についても、請求書上に記載する場合がございます。”Free on board shipping point”で売主、”Free on board destination”で買主負担となります。


取引数が多い企業では、売掛金回収のために、ロックボックス(Lockbox)という受取代行サービスを利用することもあります。これは、小切手、ACH、e-checkなどの各種受取り(注:アメリカでの各種支払方法については、「取引先への支払い」の箇所で解説しております)を企業自身が行わず、代行業者が企業に代わって行い、受取金の銀行への入金をよりスムーズに素早くするものです。企業の顧客への請求額と顧客からの入金額をチェックするサービスなど、多岐に渡る受取代行サービスを提供する業者もあり、顧客対応を良くする面もあります。ただし、日系企業側では、自社の売掛金管理経費と比較し、より効率的かつ効果的な選択を検討しなければなりません。なお、ロックボックス利用の際には、顧客に対してその旨の通知が必要です。


またアメリカでは、日本の消費税と同様に、商品やサービスに課税する付加価値税があります。売上・使用税(Sales & use tax)です。日本の消費税のように、支払分と受取分を相殺して申告納付する形式とは異なり、最終消費者が必ず負担し、当該最終消費者に売った者、あるいは売上税が徴収されなかった場合には最終消費者が使用税(Use tax)として申告納付義務を負います。


顧客に対する請求書上には、売上税(Sales tax)を計上しますが、各州税法によって課税・非課税が品目・役務ごとに細部にわたって異なり、売上税を計上するか否かについては、詳細の事前調査が欠かせません。また売上税は各州ごとに税率が異なり、顧客在住州の税率が適用されます。納付までの期間、未払税金等の科目で事業所がある州ごとに、月次管理をしておかないと、正しく申告納付できなくなるので注意を要します。





取引先への支払い
Pay invoices(Bills)





アメリカでは、仕入先、購入先などから請求を受けた際の支払方法としては、銀行小切手(Check)が一般的ですが、銀行に対して支払う小切手発行手数料も高額となりがちで、手数料負担の軽い支払方法やより手間の少ない決済方法も選ばれるようになっています。もちろん、事業規模や管理体制によって支払方法を柔軟に検討しなければなりませんが、税務当局への税金納付などは指定支払方法もあり、体制を整えておく必要があります。


支払方法


アメリカでは、一般的に以下のような支払方法がございます。


1.銀行小切手(Bank Check)

2.自動決済(Automated clearing house=ACH)

3.銀行振込(Bank wire transfer)

4.オンライン決済(Online payment system)

5.口座自動振替(Electronic fund transfer=EFT)


銀行小切手はアメリカで最も普及した支払方法で、日本のように銀行振込は一般的ではありません。個人や企業が普通預金口座(Checking account)や貯蓄預金口座(Saving account)などの銀行口座を開くと、必ず小切手帳が交付され、支払いはすべて当該小切手への金額記入と署名により済ませることができます。しかし、商取引での支払いでは、小切手の発行や郵送、銀行での決済に時間がかかり、迅速な支払いが可能とは言えません。また、銀行への支払手数料が高額になったりするため、決して割安な支払方法とも言えません。


取引数の多い企業では、ACHが利用されています。相手先の金融機関口座の口座番号等の情報を得た上で、当該口座へ直接送金する方法です。最も顕著な利用例としては、企業による従業員への給与支払いや税務当局による税金の還付です。もちろん、一般の商取引にも広く利用されており、小切手などに比べ、素早く処理されて手数料が安い半面、取引先に対して金融機関口座情報等を提供してもらうための手間が要ります。


銀行振込(Wire transfer)は米国内ではあまり利用されていませんが、米国外(海外)への支払いは、現在においても銀行振込が広く使われています。手数料がかなり高額(一般的に1回の送金につき数十ドル)ですが、ACHが数日間程度、決済に時間が必要であるのに比べ、即座に入金可能で確実に送金ができます。


オンライン決済は、インターネットを介した送金決済システムで、個人を中心に広く利用されています。銀行口座を保有する個人や企業がメールアドレスや電話番号を登録しておけば、当該登録情報によって送金が可能になります。Paypalなどは、口座を作ってクレジットカードや銀行口座の情報を登録すれば、資金をPayoalの口座に送り決済に利用することができます。またチェース、バンクオブアメリカ、シティバンクなどを中心とした大手銀行グループ傘下のZelleなどは、銀行口座にメールアドレスを登録すれば、相手側も大手銀行口座を保有していれば、メールアドレスだけで資金決済が可能です。手数料も無く容易に支払いを済ませることができます。


口座自動振替(EFT)は、主に税務当局に対する税金の納付の際に利用されます。納税者は、内国歳入庁(IRS)や各州税務当局に対して金融機関口座情報を提供し、税務当局の方が申告のあった税額や納付書(Tax bill)上の税額を自動的に当該金融機関口座から引き落とします。即座に納付できるので納付遅延を防ぐことができる一方、税務当局への各種登録手続きや更新が必要になります。


以上のように、様々な支払方法を日系企業や日本人投資家の事業局面に応じて利用し、円滑な会社運営に役立てる必要がございます。


情報報告書関連税務申告と支払い


情報報告書関連税務申告と支払いの関係についてです。


一般的に、年間$600以上を支払う個人やパートナーシップなどの役務(サービス)提供業者に対しては、情報報告書(Information return, Form 1099-MISC)を提供しなければならず、当該報告書はすべてIRSへの申告も必要となります。 事前に購入先業者(Vendor)の納税者番号(Tax identification number=TIN)や事業体についての情報を取得し、情報報告・申告書(Form 1099-MISC)の提供・申告要否を判断します。通常は納税者番号証明の依頼書(Request for a taxpayer identification number and certificate - Form W-9)を記入してもらうことにより判断します。


また、アメリカではファクタリング会社(Factoring company)が売掛金回収を代行している場合も多く、該当する取引先業者に対する支払いについては、年間支払額を集計する必要がある一方、情報報告書の提供先も上手に管理する必要があります。



米国会計業務に関する
ご依頼・お見積り



お問合せください!











従業員の給与計算
Calculate payroll





給与関連の米国での税金


従業員に対する給与支払いの際には、適切な税額の雇用税(Payroll tax)や社会保障税(Social security tax)などを源泉徴収した後に、当該源泉徴収額を明記した給与明細書を提供すると共に支給します。この形式は日本とあまり変わりありませんが、アメリカにおいて、従業員の総支給額から源泉徴収される項目は、以下が挙げられます。


1.連邦個人所得税(Federal income tax)

2.州個人所得税(State income tax)

3.従業員拠出(Employee contribution)

4.メディケア税(Medicare tax)

5.社会保障税(Social security tax)


上記項目3は、確定拠出型の年金として米国では一般的な401Kなどの拠出金額を差し引きます。また、上記のうち、雇用者側が同額を負担するものが項目4と5で、当該付加分と雇用者側のみ負担する項目と共に、雇用者が税務当局へ納付します。以下は雇用者が従業員のために負担する項目です。


1.連邦失業保険税(Federal unemployment tax act tax=FUTA tax)

2.州失業保険税(State unemployment insurance tax=SUI tax)

3.ローカル・郡税(Local/county tax)

4.雇用者拠出(Employer contribution)


上記項目4は、401Kなどで雇用者が従業員のために、追加的(付加的)に負担拠出するものです。


従業員の給与計算は、こういった雇用者負担分の税金や拠出額も考慮し、税務当局への申告納付額も含めて的確に計算する必要がございます。雇用者と従業員の各負担分については、下図をご覧ください。また、各税金の詳細は、後に述べる「米国の税務」の箇所をご参照ください。



給与計算とグロスアップ


日本からアメリカ(日系企業現地法人や駐在員事務所など)へ赴任されて勤務される方の給与は、米国の個人所得税申告に合わせるため、グロスアップ計算という特殊な方式で算定される場合が多くなります。これは、保証される給与手取金額(ネット保証額)から源泉徴収される所得税や雇用税を逆計算し、総所得額を算出する作業です。


まず総所得には、次のような項目の支給や手当が含まれます。


● 米国払いの基本給及び賞与 

● 日本払いの基本給および賞与

● 米国納付税額  

●  海外赴任手当 

● 住宅手当(賃貸料や社宅使用料) 

● 一時帰国手当 

● 引越し費用 • 子弟教育費(日本語学校等)

● 申告書作成費用 


一般的には、アメリカの大手給与関連業務代行業者(ADP、Gusto、Paychex等)が給与計算や源泉税納付に加え、給与明細や賃金と税金明細書(Wage and Tax Statement=W-2)などの所得税納税証明書類の発行を代行しています。しかし、日系企業や日本人投資家の場合、従業員のアメリカへの赴任時や日本への帰任時のための複雑な計算が必要なため、日本人会計事務所など特殊ケースに精通した専門家による代行や助言が欠かせません。グロスアップについての詳細は「米国の税務ー雇用税」の箇所をご参照ください。





資産化計上と減価償却
Capitalization & Depreciation





米国会計基準(US GAAP)においては、固定資産は測定可能な将来価値(Future value)のあるモノとし、多年度にわたって減価償却することを規定しています。US GAAPによる「財務諸表上経費計上できる限度額」の明確な規定はありませんが、耐用年数が1年を超える固定資産を無秩序に経費計上できるわけでもありません。税務申告上の制限が加わるからです。


内国歳入規則26 CFR § 1.263(a)-1及びIRS Notice 2015-82では、税務申告上、課税年度中に経費計上できる限度額について、僅少免責条項限度額(De Minimis Safe Harbor Limit)として、 以下のように規定しています。


1.SEC基準の財務諸表または財務諸表監査報告書を有する企業は$5,000を超えない額

2.SEC基準の財務諸表または財務諸表監査報告書が無い企業は$2,500を超えない額


監査報告書の必要条件は、公認会計士による監査が行われ、意見がの述べられていることです。日系企業のうち、日本で株式が上場しているような大企業は、財務諸表監査が行われることが多いですが、中小企業の多くは監査がなされていないので注意を要します。いずれにしろ、この規定により、少額($2,500以下)で購入された器械・器具、家具・備品等は、経費計上可能ですが、以下のような条件がございます。


● 各資産に請求書が疎明資料としてある。

●  財務諸表上・税務上共に同じ固定資産計上方針(Capitalization policy)が書面上である。

● 税務申告書上、適切な選択(Election)の開示がある。


以上のように、納税者の財務諸表上の固定資産計上方針について、課税年度中の固定資産下限額等を開示する必要がございます。企業の業務負担の関係で、少額の資産計上は避けたいのであれば、上記条件を満たしておく必要があるでしょう。


減価償却期間(Depreciation period)の基準となる固定資産の耐用年数(Asset lives)は、US GAAP上に具体的な規定はございませんが、税務上は固定資産の分類ごとにかなり細かい規定があり、償却年数が決められています。財務諸表上の減価償却期間は税務上のそれと異なるため、財務諸表上と税務上の減価償却費計上額に差異が生まれます。これは、税務上の加減算として損金算入・不算入の扱いとなり、一時差異と繰延税金の計上をなります。



米国会計業務に関する
ご依頼・お見積り



お問合せください!











アメリカの会計基準
US accounting standard





日系企業や日本人投資家の皆様が米国で事業展開や投資をされる際、異なった形式の財務諸表を目にされることにお気づきかと思います。会計基準が異なるために起こることですが、現在日系の皆様が目にされる財務諸表は、次の3つの会計基準によって作成されているはずです。


1.日本会計基準(J GAAP= Japan generally accepted accounting principles)

2.米国会計基準(US GAAP= United States generally accepted accounting principles)

3.国際財務報告基準(IFRS=International financial reporting standards)


日系国際企業の多くは、日本基準からIFRSへの移行を検討中かもしれませんが、2019年7月時点でも、IFRS採用企業は約200社弱に限られ、まだまだ日本基準の企業が多いと思われます。おそらく、日本に親会社を持つ日系企業で親会社共々米国基準を採用している企業はもっと少なく、ニューヨーク株式市場に上場している10社程度と思われます。しかし、米国現地法人単体のレベルでは、米国基準を採用している企業は意外に多く、親会社との連結の際には、差異のある項目について注意される必要がございます。


まず、日本基準、米国基準、IFRSの間の代表的な会計基準の違いは以下に要約されます。


1.棚卸資産評価の後入先出法LIFO使用:不可(IFRS)、可(米国基準)、不可(日本基準)

2.棚卸資産評価減戻入:可(IFRS)、不可(米国基準)、不可(日本基準)

3.減価償却方法変更が会計方針変更か見積変更か:見積(IFRS)、見積(米国基準)、会計方針(日本基準)

4.のれんの償却:不可(IFRS)、不可(米国基準)、可(日本基準)

5.減損の戻入:可(IFRS)、不可(米国基準)、不可(日本基準)

6.減損開示科目:営業費用(IFRS)、その他費用(米国基準)、特別損失(日本基準)

7.有給休暇引当要否:要(IFRS)、要(米国基準)、否(日本基準)

8.継続非継続事業別開示要否:要(IFRS)、要(米国基準)、否(日本基準)

9.異常項目の特別損失開示:不可(IFRS)、不可(米国基準)、可(日本基準)

10.受取配当・利息のキャッシュフロー開示活動区分:投資(IFRS)、営業(米国基準)、営業(日本基準)

11.支払配当・利息のキャッシュフロー開示活動区分:営業・財務(IFRS)、営業(米国基準)、営業(日本基準)


また、損益計算書の開示・表示の段階では、呼称や内容に次のような差異があります。


1.売上:収益(IFRS)、売上高(米国基準)、売上高(日本基準)

2.売上原価:原価(IFRS)、売上原価(米国基準)、売上原価(日本基準)

3.売上総利益:売上総利益(IFRS)、なし(米国基準)、売上総利益(日本基準)

4.営業外利益・損益:その他収益・費用(IFRS)、その他収益・費用(米国基準)、営業外利益・損益(日本基準)

5.経常利益:なし(IFRS)、なし(米国基準)、経常利益(日本基準)

6.特別利益・損失:なし(IFRS)、異常利益・損失(米国基準)、特別利益・損失(日本基準)


以上のように、開示項目自体が無い場合も少なくなく、表示された損益計算書の内容や残高などは大きく異なります。当期純利益の数値自体が異なる場合も多く、会社間や年度間の比較分析の際には、充分な注意が必要になります。





財務諸表の作成
Issue financial statements





アメリカでは会計ソフトや会計システムの利用により、月次や年度末の試算表(Trial balance=TB)や’元帳(General ledger=GL)、そして財務諸表については自動的に作成されます。もし会計科目(Accounting codes)や仕訳(Entries)の入力ミスにより誤りがある場合には修正仕訳(Adjusting entries)を入れ、年度末の必要な仕訳も加えて最終的な財務諸表となります。日本と同様に、下記の財務諸表が準備されます。


1.損益計算書(Statement of income or Profit and loss statement=PL)

2.貸借対照表(Balance sheet=BS)

3.持分変動計算書(Statement of changes in equity)

4.キャッシュフロー計算書(Statement of cash flows)

5.注記と付属明細書(Notes to financial statements)


アメリカの財務諸表については、法的に必要に迫られて準備するのではなく、あくまでも事業上必要になって準備することが多くなります。たとえば、銀行借入を申請する際や取引を開始する際に与信のために提示する財務諸表は、自社が準備した財務諸表だけでは信頼性に乏しいものになりますが、そんな時に準備されるのが、公認会計士による次の財務諸表報告書です。


1.監査報告書(Audit report)

2.検証報告書(Review report)

3.編纂報告書(Compilation report)


上記の3つの報告書は、保証(Assurance)のレベルが異なり、Auditが最も高く、Compilationが最も低くなります。


Compilationでは、会計士は企業の経営陣によって提示(Representation)された財務情報について何ら確認作業(Verification)をしません。財務諸表を単に作成するという目的に終始します。そのため、会計士は、財務情報の正確さや完璧性について意見を述べません。


次にReviewのプロセスでは、分析的手順(Analytical procedure)を踏みます。そのため、財務諸表に含まれた情報の正確性について、確認するために審問(Ascertain)します。結果は、制限のある保証になり、財務諸表に重要な修正箇所(Material modification)が無い旨の保証になります。


Auditでは、会計士は顧客の提示した最終残高と開示について、証拠を集めて正しいか否かを裏付ける必要があります。そのため、会計士は以下の作業をしなければなりません。


1.原資料の調査(Examination of source documents)

2.第三者による確認(Third party confirmation)

3.実地検証(Physical inspection)

4.内部統制のテスト(Test of internal control)

5.その他手順(Other procedures)


Auditは時間がかかりますが、Reviewの作業はAuditに比べるとかなりの時間が省かれ、Compilationでは、あまり時間はかかりません。従いまして、作業の費用についても、段階的に随分異なります。


一般的には、買収などを検討する投資家や事業用の借入申請を受けた金融機関は、Audit reportを要求することがあり、また、その他の目的においては、Review reportやCompilation reportが準備されています。



米国会計業務に関する
ご依頼・お見積り



お問合せください!











法人税
Corporation tax





米国税務の中でも最も難解で業務負担が重いと思われるのは法人税務(Corporation tax)ではないでしょうか。当ホームページでは、他のページも含め、米国法人税についてできるだけ詳しく解説差し上げております。ご参照ください。


アメリカの法人(Corporation)には、営利(Profit)・非営利(Non-profit)法人があります。法人税課税があるのは一般的には営利法人となり、米国法人(C法人)と外国法人(米国源泉所得がある外国法人)が課税対象の営利法人となります。米国法人には、株主になる資格の違いから次の2つのタイプの法人があります。


1.C法人(C corporation)

2.S法人(S corporation)


C法人は、内国歳入法のSub-chapter C項に定められた、株主資格に大きな制限が無い一般法人で、法人税の課税対象事業体です。一方、S法人は、Sub-chapter S項に定められた小規模法人(Small business corporation)で、株主は自然人(米国居住者のアメリカ人個人)のみとなり、株主数も100人以下に限定されます。S法人自体はパススルー(Pass-through)事業体(導管的事業体)で、それ自体には課税されません。S法人は、株主の個人が課税主体となります。


C法人は、法人税申告書(Form 1120)を期日までに提出して課税所得について申告し、法人税を納付します。現在、米国の法人税率は一律21%で、累進税率はありません。C法人の申告実務と申告書の詳細については、当ホームページの「米国法人税 実務の概要」と「米国法人税 申告と開示」の箇所をご参照ください。


非営利法人


非営利法人には、公共慈善団体(Public charity)法人と私設財団(Private foundation=PF)法人がありますが、いずれも法人税の課税はありません。ただしPFについては、投資所得(Invest income)について一部消費税(Excise tax)の課税があります。非営利法人は、いずれも申告義務はあり、Public charityは所得税非課税団体申告書(Return of Organization Exempt From Income Tax, Form 990)を期日までに提出します。PFは私設財団申告書(Return of private foundationを, Form 990-PF)を期日までに提出して納税額がある場合には納付します。


日系企業や日本人出資者の芸術・慈善事業母体として米国で設立されるPFは、寄付及び投資や預貯金から得られた所得(投資の場合は配当所得、預貯金の場合は受取利息)に若干の消費税(Excise tax)の課税はございますが、所得自体に法人税(Corporation tax)が課税されることはありません。しかし、非課税優遇措置を受けるために、毎年、次のいずれかにより、一定の資金を拠出する必要があります。


1.内国歳入庁(IRS)の定める慈善事業や社会事業を自ら催し、そのために資金を拠出する。

2.RSに登録されている適格慈善団体(Qualified Charitable Organization)に拠出(寄付)する。


寄付金額が規定の金額である拠出可能金額(Distributable amount)に満たない場合は、5年間の猶予期間を経た後、拠出されなかった金額である未拠出所得(Undistributed Income)に対し、30%の税率で連邦消費税(Federal Excise tax)が課税されます。その後、是正措置を怠った場合は、100%の税率で課税されます。ほぼ接収という意味合いになります。この限りにおいて、「慈善・社会事業を行なう団体は、余計に儲けてはいけない」 または、「慈善団体を偽って税金逃れをしてはいけない」という思想が根底にあります。 ここで言う30%または100%の課税自体は、財団資格の剥奪には繋がりません。単に時期が来て課税対象になっただけということになります。 5年の猶予期間の存在理由は、一般的なPFであれば、芸術・慈善事業を行なうために、ある程度の資金を集めるか、または貯める期間が必要であるためです。多くのPFでは、大きな慈善事業等の活動を行なうために長期的に寄付を募ったり、投資活動をして資金を増やしたりしています。


拠出すべき金額である拠出可能金額は、財団の資産規模に応じて計算されます。つまり、「たくさんお金を持っている財団は、それなりに活動や寄付ができるはず」という意味合いがあります。 計算は以下の通りとなります。


1.総資産から1%分の慈善活動用保有可能現金を差し引く。

2.上記項目1に5%を乗ずる。

3.上記項目2から税金を差し引く。


上記のとおり、毎年拠出しないといけない拠出可能金額は総資産の約5%弱となります。逆に、拠出可能金額を超えて拠出した場合には、次年度以降に当該超過拠出額(Excess Distribution)が繰越され、拠出可能金額に充当できます。ただし、累積した当該超過拠出額も5年経過すると失効となって消失されます。


次に、PFは上記規定以外に、投資で得た所得(利子や配当)に対し、一定税率(1%または2%)で、毎年連邦消費税(Federal Excise tax)を納付します。 1%または2%が適用される基準計算は以下の通りとなります。


1.寄付金額など適格拠出額(Qualifying Distribution)を総資産で割った率の過去5年間の加重平均を算出する。

2.上記1の平均率を過去5年間の申告年度末の資産残高に乗ずる。

3.上記2と申告年度の実際の拠出金額を比較し、実際の拠出金額が多い場合は1%、少ない場合は2%を適用。


上は、「例年より多い金額を拠出した年は、低い税率(1%)を適用する」という意味合いがあります。


PFの資格維持に必要な要件は次の項目となります。


● 政治家(候補含む)の政治的活動から完全に無関係であること 

●  株主の利益に財団の利益が関係していないこと

● 設立者やその家族、株主やその家族などの利益のために運営されないこと

●  会社、工場や学校の運営等、免除目的とは異なる事業を行なうために運営されないこと

● 違法でない、または公序良俗に反しない目的のために運営されること





個人所得税
Individual income tax





米国税務の中でも、最も多様性があると思われる申告業務が個人所得税関連です。納税者の申告納付局面での状況は千差万別で、留意点についても全く異なります。そんな中、米国に居住する個人や米国源泉所得のある非居住者の個人は、ご自身で毎年確定申告を行う義務を負います。企業による源泉課税と年末調整で済む日本では、高額所得者を除いて、個人の方が確定申告をする必要はありませんが、アメリカでは常に各々個人の方が申告納税義務者となります。さらに厄介なことに、連邦(Federal)と在住州(State)及び勤労日数のある州において、それぞれ別の申告納付をしなければなりません。所得税申告課税のある郡や市などについても、申告要否を判断する必要がございます。


原則として、所得控除などの各種控除前の総所得(Gross income)が$12,000(夫婦合算申告の場合$24,000)に満たない場合で、各種税還付申請や税額控除(Tax credit)申請が必要無いケースでは、申告の必要性がなくなることもありますが、これについても慎重に判断する必要がございます。


居住者・非居住者


納税者の属人的な申告区分(居住者申告か非居住者申告かの判断)については、以下に挙げる米国における居住状況(居住者か非居住者かの判断) が影響します。


1.居住者(Resident)

2.非居住者(Non-resident)

3.二重身分(Dual status)


居住者は、アメリカ市民権(国籍)を持つ方、米国永住権(グリーンカード)を保有する方に加え、アメリカ国内に一定期間住んでいる外国人(Resident alien)も含まれます。非居住者は、アメリカ国内に一定間以上住んでいない外国人が含まれます。二重身分は、課税年度内に居住者と非居住者の区分が共存される方で、外国から米国へ、事業や勤務先業務のために赴任する方や米国での事業や業務を終えてご自身の国へ帰任される方などが該当します。


下記チャートは、居住者・非居住者を判定する実質滞在テスト(Substantial presence test)です。





上記の「タックスホーム」は、事業拠点や雇用の証拠があるなど、米国税務上の課税根拠となるもので、居住者か否かの判断材料としては非常に重要になります。


米国居住者と判断された場合には、全世界の所得(Worldwide income)が米国の申告上課税対象となります。一方、米国非居住者と判断された場合には、基本的に米国源泉所得(U.S. source income)のみが課税対象となります。申告の区分によって税率や控除額が異なるため、慎重に判断する必要がございます。


所得の種類


一般的に、個人の方の所得には以下の項目等が含まれます。 


● 給与所得(Salary)

●  利子所得(Interest)

● 配当所得(Dividend)

● 不動産賃貸所得(Real estate rental income)

● 不動産譲渡益(Sales of real estate)

● キャピタルゲイン(Capital gain)


上記項目6のキャピタルゲインには、株式処分益など投資資産の譲渡益が含まれます。 すべての所得は申告書上で合算されて課税所得となりますが、上記のうち、項目2から5の所得は米国の源泉分離課税の対象ともなっています。従いまして、日本居住者(米国非居住者)が得た源泉分離課税対象の所得については、2019年に新たに批准された日米租税条約上の規定に則って、米国から日本への送金の際、一定の税率により源泉徴収されてIRSに納付されます。また、非居住者が得た不動産譲渡益については、FIRPTA(Foreign Investment in Real Property Tax Act)という非常に複雑な米国源泉徴収税制が適用となるため、慎重な税務戦略が必要です。


源泉徴収と所得税の関係は複雑です。米国税務専門の会計士にご相談されることをお勧めします。


申告身分(Filing status)と個人所得税率


先に述べましたように、所得控除などの各種控除前の総所得(Gross income)が$12,000(夫婦合算申告の場合$24,000)を超えなかった年度には申告の必要はないのですが、控除後に課税所得(Taxable income)が発生する場合には、申告身分(Filing status)別の累進税率で課税されます。申告身分には次の5つがあります。


1.独身(Single)

2.夫婦合算申告(Married filing jointly)

3.夫婦別申告(Married filing separately)

4.特定世帯主(Head of household)

5.特定未亡人(Qualified widow)


上記の特定世帯主は、扶養する子や親を持つ独身者のことを言います。独身に比べて少し優遇されています。また、特定未亡人は、子供を扶養する未亡人で、夫婦合算と同じ累進税率が適用され優遇されています。


次表は、2018年度の累進税率表で、内国歳入庁の申告書説明資料の中からの抜粋です。年度ごとに税率や課税所得区分が変更になるので、毎年確認が必要です。





キャピタルゲインの個人所得税率


米国個人所得税は上表の税率で課税されますが、キャピタルゲイン(個人の方による投資資産や保有不動産の売却益等)については個別検討を要します。キャピタルゲインは保有期間によって2種類に分類されます。


1.短期譲渡所得(Short-term capital gain)

2.長期譲渡所得(Long-term capital gain)


通常は、1年以下の保有期間が短期、1年を超える保有期間が長期とされています。各々のゲインを計算する際には、キャピタルロス(損失)や繰越キャピタルロス(Capital loss carryover)などと相殺及び通算して最終的なキャピタルゲインを算定します。短期保有資産の譲渡時は、所得税課税と同じ税率で課税されますが、長期譲渡キャピタルゲインの場合には次表の税率表(2018年度)となります。税率や所得区分は変更されることがあり、毎年確認が必要です。





特殊資産の収集品には、切手(Stamps)、貨幣(Coins)、貴金属(Precious metal)希少宝石(Precious gems)、希少な絨毯(Rare rugs)、骨董品(Antique)、芸術品(Fine arts)などが含まれます。


所得控除


課税所得を計算する上での所得控除は2種類に大別されます。いずれか有利な方を選択できます。


1.標準控除(Standard deduction)

2.項目別控除(Itemized deduction)


標準控除は、所得から定額で控除されるもので、申告身分によって、以下の額(2018年度)となっています。





標準控除は、項目別控除額と比較して多くなる場合に選択できる簡便法ということができます。申告身分が非居住者または二重身分(Dual-Status)の場合、項目別控除のみが認められており、標準控除は選択できません。


項目別控除は、個別の項目ごとに計上されますが、以下の項目が挙げられます。


●  医療・歯科医療費(Medical & dental expenses) 

●  州・ローカル税(State & local taxes)

● 住宅・投資ローンの支払利子(Home mortgage interests)

●  寄付金(Donation)

●  盗難・災害による損害(Casualty & theft loss)


医療費は、調整後総所得(Adjusted gross income)の7.5%を超過した差額分が対象になります。税金のうち、連邦税は対象ではありません。州の所得税と国内外の固定資産税などで、上限額は$5,000(夫婦合算の場合$10,000)で、それ以上は控除できません。売上・使用税は州税ですが対象とはなりません。寄付金は教会、学校、図書館、病院、文化・教育団体への寄付が控除できます。内国歳入庁が認可した慈善団体に対する寄付も控除可能です。盗難や災害の損害は、調整後所得の10%を超過した差額分が対象です。自動車事故、ハリケーンなどが該当します。盗難の際の警察署への届け出証明や保険会社への提出資料などを疎明資料として保管しておきます。


日系企業や日本人投資家の個人所得


「米国の会計ー従業員の給与計算」の箇所でも述べましたが、日本からアメリカ(日系企業現地法人や駐在員事務所など)へ赴任されて勤務される方の所得には、次のような項目の支給や手当が含まれます。


● 米国払いの基本給及び賞与 

● 日本払いの基本給および賞与

● 米国納付税額  

● 海外赴任手当 

● 住宅手当(賃貸料や社宅使用料) 

●  一時帰国手当 

● 引越し費用

● 子弟教育費(日本語学校等) 

● 申告書作成費 


個人所得税申告実務


連邦税については、納税者の居住状況(居住者か非居住者か?)に応じ、居住者の場合は米国個人所得税申告書(U.S. individual income tax return=Form 1040)を、非居住者の場合は米国非居住者所得税申告書(U.S. nonresident income tax return=Form 1040NR)を使用して各種別添様式を添付の上申告納付します。また、課税年度内に居住状況が異なる場合、つまり居住者と非居住者であった期間が共存する場合には、二重身分(Dual status)となって、居住者用・非居住者用の両方の申告書を使用して申告します。


申告実務上は、申告書をご自身で記入して提出される方、ソフトウェア―を使って申告書を作成し、インターネットを通じて申告納付される方、会計士や代行業者に依頼される方と様々です。課税所得が$66,000未満の方で条件に合致する方は、内国歳入庁(Internal revenue service=IRS)提供の無料ソフトウェアーを利用することもできます。ただし、頻繁な税制改正や時限立法による税額控除なども含めて申告内容は極めて複雑で、日本の所得税申告とも全く異なり、日系企業や日本人投資家の皆様におかれましては、専門家へのご相談が欠かせなくなっています。


申告期日は毎年4月15日。当該期日が土日祝日に該当する場合には、次の営業日(Business day)となります。郵送で郵便局(U.S. postal service= USPS)から発送する場合には、特殊配達証明書付郵便(Certified mail receipt)とし、書留郵便物受領通知(Return receipt)も同時に添付する形式で送ります。これは後日、期日までに申告を済ませたことと税務当局が 期日までに正確な申告ができない場合には、個人所得税申告書の自動延長申請書(Application for Automatic Extension of Time To File U.S. Individual Income Tax Return=Form 4868)によって、10月15日まで期日延長を申請することができます。ただし、納税は4月15日までに全額済ませていないと過少納付による罰金や延滞利息の対象になりますので、課税所得計算とそれに基づく納付は必須となります。



米国税務に関する
ご依頼・お見積り



お問合せください!











雇用税
Payroll tax





各種雇用税


米国税務の中では、業務量として最も負担があると思えるのが雇用税関連税務です。「米国の会計ー従業員の給与計算」の箇所でも述べましたが、従業員に対する給与支払いの際には、適切な税額の所得税(Income tax)や社会保障税(Social security tax)などを源泉徴収した後に、当該源泉徴収額を明記した給与明細書を従業員に提供すると共に支給します。雇用税(Payroll tax)は、これらの項目全般を総称的に言うことが多いです。税金等の源泉徴収の形式は日本とあまり変わりありませんが、アメリカにおいて、従業員の総支給額から源泉徴収される項目は若干異なり、以下が挙げられます。


1.連邦個人所得税(Federal income tax)

2.州個人所得税(State income tax)

3.従業員拠出(Employee contribution)

4.メディケア税(Medicare tax)

5.社会保障税(Social security tax)


上記項目1及び2は、従業員が負担義務のある所得税を雇用者である企業が源泉徴収して税務当局に納付する義務を負っています。雇用者は、従業員から雇用者の源泉徴収証明書(Employee’s Withholding Allowance Certificate Form= W-4)を取得して雇用者の申告身分(Filing status)を確認し、規定通り正確な額の源泉徴収と納付をしなければなりません。上記項目3は、確定拠出型の年金として米国では一般的な401Kなどの拠出金額を差し引きます。また、上記のうち、雇用者側が同額を負担するものが項目4と5で、当該付加分と雇用者側のみ負担する項目と共に、雇用者が税務当局へ納付します。以下は雇用者が従業員のために負担する項目です。


1.連邦失業保険税(Federal unemployment tax act tax=FUTA tax)

2.州失業保険税(State unemployment insurance tax=SUI tax)

3.ローカル・郡税(Local/county tax)

4.雇用者拠出(Employer contribution)


上記項目4は、401Kなどで雇用者が従業員のために、追加的(付加的)に負担拠出するものです。 従業員の給与計算は、こういった雇用者負担分の税金や拠出額も考慮し、税務当局への申告納付額も含めて的確に計算する必要がございます。雇用者と従業員の各負担分については、下図をご覧ください。





FICAとFUTAのしくみと税率


上記のMedicareとSocial securityの部分は、連邦保険拠出法(Federal Insurance Contributions Act=FICA)による源泉徴収義務で、雇用者と従業員が半分ずつを負担します。税率(2019年度)は以下のとおりです。


● Social security tax($132,900までの総賃金Gross wageに対し6.2%の課税)

●  Medicare tax(最初の$200,000までの総賃金Gross wageに対し1.45%の課税、$200,000超の部分に2.35%の課税)


上記のとおり、従業員がSocial securityとMedicareについて、総賃金(Gross wages)に対して合計7.65%を負担し、雇用者である企業側が同じく7.65%を負担します。結果、全体で総賃金の15.3%が税務当局に納付されることになります。納付時には雇用者の四半期連邦税申告書(Employer’s QUARTERLY Federal Tax Return=Form 941)を期日までに提出します。 なお雇用者は、Medicareの$200,000を超える部分については負担の必要がありません。


また、雇用者だけが負担するものに、連邦失業保険法(The federal unemployment tax act=FUTA)による税金があります。従業員に対して支払った最初の$7,000に対して6%が課税されるため、雇用者である企業は、当該税金を源泉徴収して納付します。納付時には、雇用者年次連邦失業保険申告書(Employer's Annual Federal Unemployment (FUTA) Tax Return)を期日までに提出します。また各州が(State unemployment insurance=SUI)を課税しており、それについても源泉徴収をして納付します。


雇用税関連実務


一般的には、アメリカの給与関連代行業者(ADP、Gusto、Paychex等)が給与計算や源泉税納付に加え、従業員に提供される給与明細(隔週ごとまたは毎月、総支給額から手取金額までを源泉徴収税額を含めて明記した書類)や賃金税金明細書(Wage and Tax Statement=W-2)などの所得税納税証明書類の発行を代行しています。多くの代行業者は人事(Human resource=HR)関連サービスも含めて業務を提供しています。


日系企業の多くは、現地社員と日本からの出向社員(駐在員)との区別に係わらず、上記の大手代行業者を採用し、給与関連の各種明細書類を発行しています。従業員数によって、代行手数料も柔軟に対応していますので、自社のニーズに合致する業者とプランを選定すべきでしょう。ただし、従業員が数人しかいない日系企業や日本人投資家であれば、代行業者に依頼するまでもなく、日系会計事務所にまとめて頼んだ方が良いケースもございます。後述しますが、日系企業特有の処理をしなければならないからです。


日系企業特有の雇用税管理とグロスアップ


「米国の会計ー従業員の給与計算」や「米国の税務ー個人所得税」の箇所でも若干触れておりますが、日系企業や日本人投資家の場合、日本における事業との関連で、純粋なアメリカ企業には無い追加的な作業を強いられるケースも多々あります。


次のような事項が考えられます。


● 各種手当の従業員所得への組み入れ

● 米国及び日本払い給与・賞与のグロスアップ

● 米国源泉徴収納付税額の再計算

●  会社と従業員負担の調整(Equalization)


従業員に支給される日米払いの給与・賞与や米国における各種手当(海外赴任手当、 住宅手当、賃貸料や社宅使用料、一時帰国手当、引越し費用 、子弟教育費)も全世界所得として米国赴任従業員の米国における申告上考慮に入れる必要があります。また通常、日本から赴任の従業員は米国の税金を負担せず、手取金額での保証額(ネット保証)により、米国で支給されます。そのため、会社負担の税金分も含めた総額(Gross)を所得として考えないと、企業から従業員への贈与と扱われかねず、当該グロスアップした所得とそれに見合った各税金を再計算する必要がございます。


さらに、従業員のアメリカへの赴任時や日本への帰任時には、税額負担が最も低くなる申告区分(居住者用、非居住者用、二重身分のいずれか)を検討する必要があり、その結果、年度末の調整や再計算が必要になります。例えば、賞与は米国滞在期間と日本滞在期間に分けて、ボーナス査定期間とあわせて日割りで米国支給額を計算します。また、日本で納付した所得税は、米国において外国税額控除(Foreign tax credits)の対象になり得るため、考慮が必要になったりします。個別案件によっては随分複雑な計算になり、米国の大手給与関連業務代行業者では手に負えないケースがほとんどです。仮にできたとしても正確性に欠く内容になってしまい、結果として不必要な税務調査を呼び、追徴課税など不要な負担が増えてしまいかねません。日本人会計事務所など特殊ケースに精通した専門家による代行や助言が欠かせません。





資産税
Property tax





資産税については各州税法によって異なりますが、次の2つの課税があります。


1.固定資産税(Real estate tax or Real property tax)

2.償却資産(動産)税(Personal property tax or Tangible property tax)


各州に所在する郡(County)、市(City)、町(Town)、村(Village)など地方当局(Local government)が税務当局となって課税します。域内の公園、道路、施設などのインフラ整備や消防署、学校、警察署など、役所に勤める署員の給与などに支出されます。米国税務上、一般的には固定資産税は申告の必要は無く、償却資産税については、毎年簿価や市場価値などを申告する必要がございます。


固定資産税


固定資産税は、土地(Land)や建物(Building)、土地改良(Land improvement)や賃借物件改良物(Leasehold improvement)など、土地に付随する不動産に課税される税金です。米国内のすべての州で課税され、居住用、事業用の用途に限らず課税対象となっています。郡やその他自治体によって評価額や税率は異なり、保有資産がある自治体の税務当局が提供するホームページなどで確認する必要があります。課税の妥当性は各納税者が検証する必要があるということになります。


通常の課税標準となる査定額(Assessed value)は、税務当局の査定官(Tax assessor)が物件周囲の時価(Actual value)等を検討して決定した評価額(Appraised value)となります。評価額は、各自治体で計算方法が決められており、通常は、公正市場価値(Fair market value)から2分の1や3分の1等の定められた基準で計算されることが多くなっています。税率は各郡(County)の中でも各町(Town)によって異なり、概して財政的に裕福な町は税率が高くなり、貧しい町は低くなる傾向が否めません。米国では、町の格差がはっきりしており、特に貧しい地域は、企業地区(Enterprise zone)など、税制優遇などで企業や産業を誘致する自治体も多くなっています。


課税の流れは以下のとおりです。


1.査定通知(Assessment notice)

2.不服申し立て(Appeals)

3.課税通知(Tax bills)


まず、税務当局の査定官(Tax assessor)から、前年度も含め2ヵ年または3ヵ年の査定額が印刷された通知書が届きます。課税額も同時に通知書上に告知されることもあります。あくまでも、当局が主張する評価額であるため、納税者である不動産所有者が高過ぎると感じた場合には、公正市場価値の正当な計算根拠を持って不服申し立てが可能です。まずは、査定官に連絡を取って、評価の根拠を問い質し、その上で期日までに行政不服審査(Administrative appeal)を申し立てます。結果、査定額が下がることもありますし、変わらない場合もあります。納税の時期になりますと、課税通知書が送付されます。高額となるため、通常は分割納付などの納付方法が記されており、期日までに納付を済ませます。


通知書等が届かない場合には、税務当局に連絡して送付を催促します。通知書が届かなかったからといって、納税が延期されるわけではなく、期日までに納税をしなければ、罰金と納付延滞利息の対象になります。注意が必要です。


償却資産(動産)税


償却資産(動産)税は、一般的にはPersonal property taxと呼ばれていますが、広義ではTangible property tax(流動資産税)とも呼ばれ、税務当局により呼称は異なります。事業用資産(Business property)のうち、減価償却可能な資産に課税されます。器具、器械、機械、PC、家具などの一般的な償却資産に加え、備品や文房具など、消耗品に課税される自治体もあります。また、償却資産や消耗品に加え、顧客に販売される棚卸資産(Inventory)やリース資産について課税対象になる税務当局もあります。課税は事業所の所在する郡(County)や市(City)からとなるため、同じ州内に複数の事業所がある場合には、異なる税務当局への複数の申告納付となる場合もあります。


2020年現在、以下の12州では課税されていません。


デラウェア(Delaware )、ハワイ(Hawaii)、イリノイ(Illinois)、アイオワ(Iowa)、ミネソタ(Minnesota)、ニューハンプシャー(New Hampshire)、ニュージャージー(New Jersey)、ニューヨーク(New York)、ノースダコタ(North Dakota)、オハイオ(Ohio)ペンシルヴァニア(Pennsylvania)、サウスダコタ(South Dakota)


上記の各州以外は課税があり、流れは以下になります。


1.申告書提出(Tax return filing)

2.査定通知(Assessment notice)

3.不服申し立て(Appeals)

4.課税通知(Tax bills)


固定資産税とは異なり、毎年資産台帳を基に償却資産の簿価と減価償却費累計額等のデータを税務当局に申告します。課税年度内に新規取得した(Acquired)資産や除却した(Disposed)資産を個別明細に記す必要のある自治体もあります。多くの事業所を運営していて、複数の償却資産税申告が必要な場合には、固定資産台帳上の各固定資産を事業所別に選別できるように、Excel等で管理する方が良いかもしれません。


申告は、申告書様式を使用して郵送する形式とインターネットを通じてWebで申告を行う形式に分れます。昨今は、かなり多くの自治体がWebでの申告を奨励しており、前年度のデータも毎年繰越計上されていて、迅速に申告が可能になってきました。様式を使用して申告しなければならない自治体においては、毎年様式が納税者に郵送されてきますが、受け取らなかったからといって申告を怠ると、申告延滞の罰金対象となるため、自治体のホームページなどから様式をダウンロードするなり、期日までの申告を心掛けなければなりません。


申告後の流れは、固定資産税とほぼ同じで、不服申し立てが可能であれば検討します。



米国税務に関する
ご依頼・お見積り



お問合せください!











遺産税、相続税、贈与税
Estate tax, Inheritance tax, Gift tax





米国税務上、遺産(Estate)に伴う税金には、被相続人(亡くなった方)が納付する遺産税(Estate tax)と相続人(故人から遺産を受け取った方)が納付する相続税(Inheritance tax)があります。もちろん、亡くなった方が実際の申告納付実務をこなせませんので、遺産税については、遺言検認裁判所(Probate court)が任命した執行者(Executor)や遺産管理人(Administrator)の方などが事実上の申告納付を行います。たいていは、故人(Decedent)の配偶者、子、兄弟姉妹の方などが選任(Appointed or qualified)されますが、選任できない場合には、遺産を事実上保有(Constructive possession)されている方などが執行者になることもあります。


遺産税は、連邦(Federal)及び一部の州(State)の税務当局により課税されますが、米国市民(U.S. citizen)や米国永住者(U.S. permanent resident=green card holder)の場合、かなり高額の課税基準値(閾値)が設定されていて、遺産が課税額に達しないことが多く、ほとんどの方は申告納付の必要がなくなっています。一方、非居住外国人(Non-resident alien)の場合、連邦遺産税の課税では$60,000以上の米国内該当遺産が課税対象となり、日本に居住する日本国民の方などは、課税に該当するかについて慎重に検討しなければなりません。


また、ある一定条件に該当し、一定金額を超えた額の贈与(Gifts)があった場合にも課税があり、米国税務上の贈与税(Gift tax)の申告納付が必要です。これは連邦(Federal)税務当局による課税で、受贈者(贈られた方)ではなく、贈与者(贈った方)に申告納付義務があります。


上記の各税金は、日本とは異なる納税義務者となるので注意を要しますが、日本人や日系企業関係者の場合、次の3つの条件を考慮に入れて検討する必要があります。


1.被相続人、贈与者の米国居住状況(Domiciliary)は?

2.遺産や贈与の対象は何で、どこにあるか?


上記事項に加え、日本の相続税・贈与税や日米租税条約の恩典との絡みもあり、慎重な検討が必要です。


以下、項目ごとに順を追って解説します。


米国の遺産税と相続税


アメリカでは、被相続人(亡くなった方)が申告納税する遺産税(Estate tax)と相続人(遺産を受け取る方)が申告納税する相続税(Inheritance tax)がありますが、連邦(Federal)と各州(State)の税務当局によってそれぞれ課税されています。各州では徐々に非課税になっきていますが、まだ課税のある州があります。


下表は2019年現在の課税状況と課税される基準値(閾値)及び連邦遺産税・贈与税の税率表です。閾値を超えると課税となり、課税対象額(Taxable amount)に税率を乗じて納付税額を求めます。各州の税率については、それぞれ個別に調査する必要がございます。





米国連邦遺産税・贈与税の税率
(Federal estate and gift tax rates)





各州の遺産税は、故人(Decedent)が生前当該州に居住していた状況で課税されることが多くなっています。また、各州の相続税については、故人と相続人との関係など、様々な課税要件が各州税法によって規定されています。いずれの税金も国である連邦の課税とは完全に独立して別の税務当局の位置づけで課税されるため、各々の申告義務について検討する必要がございます。


米国の贈与税と申告実務


アメリカでは、1人の個人が別の受取者1人に対し、課税年度内に$15,000を超える額の資産を贈与した場合、贈与税が課税されます。1人につき$15,000が限度であるため、複数の人に対して贈与をしても$15,000を超えなければ課税はありません。また、生涯控除(Life time exclusion)として、遺産(Estate)の一部とすることができ、仮に$15,000を超える金額の贈与を1人(例えば子供)に行ったとしても、贈与税申告書上で当該生涯控除を計上すれば、贈与税を納付する必要はなくなります。遺産税と贈与税の課税制限を生涯を期間として共有することになり、米国居宅者である米国市民の場合、$11,400,000、米国外居宅者である外国人の場合は$60,000が控除の上限額になります。しかしながら、最終的に亡くなって遺産税として納税する際には、当該控除分が遺産税非課税額から差し引かれます。申告書を正しく記入して提出しないと、控除が適用できなくなるので、専門家にご相談されることをお奨めします。


贈与税の税率は、遺産税と同じです。(上述の遺残税税率表をご参照ください)


管轄の税務当局は連邦(Federal)で、国(内国歳入庁=IRS)に納める税金になります。基本的に、贈る側(Giver)に申告納付義務があります。


贈与税が課税されないのは次に挙げるケースです。


1.米国市民の配偶者に対する贈与(配偶者が外国人の場合$152,000が限度額)

2.政治団体(政治団体が使用するため)に対する贈与

3.教育(授業料等)、医療費目的での他の人のための支払い


項目3については、個別に細かい規定があるので、専門家の意見が必要です。


課税と判断した場合、贈与税世代飛び越え譲渡税申告書(United States Gift (and Generation-Skipping Transfer) Tax Return =Form 709)を期日の4月15日までに提出します。6ヵ月の期日延長が可能で、期日延長申請書(Application for Automatic Extension of Time To File Form 709=Form 8892)を提出するか、個人所得税申告書の延長申請を行う(Application for Automatic Extension of Time To File U.S. Individual Income Tax Return=Form 4868)か、いずれかの方法で可能です。ただし、納税額がある場合には、オリジナルの期日までに納付する必要があります。正確な計算が出来ない場合には、見積金額で納付し、後に還付できるようにします。


米国連邦遺産税・贈与税の課税と居宅条件


一般的には、米国市民(U.S. citizen)や米国永住者(U.S. permanent residents=green card holder)として米国居宅者(U.S. domiciliary)が亡くなると、全世界の資産(Worldwide assets)に対して遺産税が課税されます。一方、米国内に住んでいない米国外居宅者(Non-U.S. domiciliary)が亡くなると、米国内に所在する資産(U.S. situated assets)にのみ課税されます。また、贈与税(Gift tax)についても、米国外居宅者については、課税・非課税の基準が米国居宅者とは異なります。


米国外居宅者の連邦遺産税・贈与税課税の基準は、財産の種類によって、概して次表のとおりとなります。



米国外居宅者の課税・非課税財産





米国遺産税・贈与税課税判断の際に分類される米国居宅者の概念は、米国個人所得税(U.S. individual income tax)の課税判断の概念とは異なります。米国個人所得税の際に使用される実質滞在テスト(Physical presence test)で居住者(Resident)と判断されても、遺産税・贈与税で課税となるとは限りません。遺産税・贈与税の課税判断の際には、事実状況テスト(Facts and circumstance test)によって検証されます。次に挙げる項目がそれぞれ判断材料になります。


1.居宅主旨書(Statement of intent, in visa application, tax return, will etc.)

2.米国居住の期間

3.グリーンカードテスト

4.米国内外の生活形式

5.以前の国とのつながり

6.市民権のある国(Country of citizenship)

7.事業権益の場所(Location of business interest)

8・教会、選挙権、運転免許保持の場所


居宅について、公的な文面でどのように示されているについては重要で、たとえば、非移民査証(Non-immigrant visa)の申し込みの際に、用が済めば米国を離れる旨が記述されていれば、居宅(Domicile)を永続せず放棄することが予想されるため、居宅者とはなりません。また、グリーンカードは、米国に永住する意思を宣言しているため、居宅者となります。もちろん、国籍や事業の場所なども検討材料ですが、概して、実際に住んでいる家があって、永続的に住む意志が明らかな場合には、居宅者となり得ます。


上記米国居宅条件の判断で、米国外居宅者と判断されると、米国遺産税務上は、非居住外国人故人(Non-resident alien decedent)となり、米国居住者故人(U.S. resident decedent)とは異なる扱いを受けます。最も大きな違いは、課税対象になる遺産額が大幅に小さくなることです。米国居住者が$11,400,000まで課税されないのに対し、非居住外国人故人は、わずか$60,000までしか非課税になりません。


連邦遺産税の申告実務


遺産税の申告が必要な場合で、故人(Decedent)が米国市民あるいは米国永住者の場合には、米国遺産税世代飛び越え譲渡税申告書(United States Estate (and Generation-Skipping Transfer) Tax Return=Form 706)を期日までに提出します。前にも述べました、米国内に住んでいない米国外居宅者(Non-U.S. domiciliary)が故人の場合には、非居住者用米国遺産税世代飛び越え譲渡税申告書United States Estate (and Generation-Skipping Transfer) Tax Return Estate of nonresident not a citizen of the United States=Form 706-NA)を期日までに提出します。前述のとおり、申告納付義務者は故人になりますが、爺津城の実務を担当する方は執行者(Executor)になります。


期日は、故人が亡くなった日から9か月以内。遺産税申告延長申請書(Application for Extension of Time To File a Return and/or Pay U.S. Estate (and Generation-Skipping Transfer) Taxes=Form 4768)を期日までに提出すれば、6ヵ月の期日延長が認められます。


期日が延長できたとしても、様々な手続きが必要なケースが多く、日本に住む日本人が亡くなったようなケースでは、日本の相続税申告とも絡んで、申告は時間との勝負になります。生前にも色々な準備が可能で、スムーズに申告納付が進むようにしておくことが肝心です。


日米相続税条約と日本の相続税法


日米遺産相続贈与税条約(The US-Japan Estate, Inheritance and Gift Tax Treaty)においては、互いの国において財産を保有する条約締結国の居住者が二重課税を回避できる条項を規定しています。互いの国の税法において締約国において納付された税金について、税額控除(Tax credits)による減免を認めています。これにより、両国での申告納付の必要はあるものの、いずれか申告した国での税額控除により、課税された税金を取り戻すことが可能になっています。


日本の相続税法は、相続人(遺産を受取る者)として相続税が課税されます。日本国内外のすべての全財産について相続税申告義務がある無制限納税義務者と日本国内の財産についてのみ申告義務のある制限納税義務者に分れます。制限納税義務者は、次の2つのケースが考えられます。


1.相続人が外国居住者でかつ外国籍である。

2.相続人が日本国籍だが、相続人・被相続人共に5年以内に日本国内に住所が無い。


上記のような制限納税義務者の場合には、日本国内の財産と米国内の財産について、それぞれ課税される財産も異なり、日米で同時に課税されることもありますが、申告書上で互いの国で納付した税金を差し引き、二重課税を免除されます。色々なパターンがありますが、日本で申告する場合には、特例計算をして税金を減免します。


両国での申告は複雑になるので、それぞれの国の税務の専門家に相談する必要があるでしょう。





売上・使用税
Sales & use tax





アメリカの売上・使用税(Sales & Use Tax)は、物やサービスの売買の際に、その販売価格に一定の税率(4%~10%)を乗じて課税される税金です。米国税務上は、企業にとっても、一般の人々にとっても、最も身近な税金と言えます。各州税務当局が管轄し、2020年現在、アラスカ(Alaska)、デラウェア(Delaware)、モンタナ( Montana)、ニューハンプシャー(New Hampshire)、オレゴン(Oregon)の5州以外のすべての州で課税されています。各州税法により、課税品目、課税サービス、税率が異なると同時に、課税形式も異なります。日本の消費税のような付加価値税と性格が似つつも、転売を含むすべての取引で課税される上に徴収分と支払分を相殺する消費税申告(付加価値税申告)とは、申告形態が全く異なります。


たいていの州では、州が課税する「州部分」と郡(County)や町(Town)が課税する「ローカル部分」に分かれ、ローカル部分の税率が地域によって異なるため、同じ州内でも税率に幅がある場合もあります。またローカル自治体によって、課税品目や課税サービスが異なることもあり、売上・使用税の申告納付を一層複雑にしています。


米国売上・使用税のしくみ


米国の売上・使用税は、常に最終消費者(End user)に税金の負担義務があり、申告納付義務者は、最終消費者に売った売主(売上税申告者)あるいは最終消費者(使用税申告者)自身となります。


通常のモノや役務の取引では、売主(Seller)が買主(Purchaser)から売上税(Sales tax)を徴収し、州税務当局に売上税の申告納付をしますが、最終消費者の買主が買った際の請求書(Invoice)上に売上税が計上されていなかった場合、買主は買った場所の所在する州で使用税(Use tax)として申告納付しなければなりません。





上のイラストでは、売上税と使用税となる取引を示しています。


売上税のケース(AとB)


1.AはBに商品を売りました。

2.Bは商品と共に請求書(Invoice)も受け取りました。

3.請求書上には売上税が計上されていました。

4.Bは商品の支払いと同時にAに売上税を支払いました。

5.AはBから売上税分も受け取り、売上税申告書を州税務当局に提出して売上税を納付しました。


使用税のケース(CとD)


1.CはDに商品を売りました。

2.Dは商品と共に請求書(Invoice)も受け取りました。

3.請求書上には売上税が計上されていませんでした。

4.Dは州税務当局に対し、計上されなかった売上税分を使用税として納税する義務があります。

5.Dは使用税申告書を州税務当局に提出して使用税を納付しました。


請求書上に売上税が計上されないケース、つまり使用税申告が必要なケースの多くは、売主が売った販売先の州では売主が税務登録(Tax registration)をする必要がない場合です。例えば、売主が所在する州から、州境を超えて異なる州に所在する買主にモノを売った際、売主が当該買主在住州において売上税登録が必要ない場合があります。その場合、売主は、売上税を当該買主在住州に申告納付する必要がありませんので、買主に対する請求書上に売上税を計上せず徴収もしません。そうなると、買主以外申告納付する人がいなくなってしまいます。これが使用税申告が必要になるケースです。


また、売主が税務登録をしていても、単に売上税が非課税であると間違って判断し、売上税を徴収しないケースもあります。その場合には、買主は自ら使用税額を計算して、申告納付しなければなりません。通常は同じ州内(町内)であれば、課税額が同額であれば、売上税と使用税は税率も税額も同じになります。


売上税を含む取引には、免除証明(Exempt certificate)の授受という形式で売上税を回避できる場合があります。例えば、製造メーカーが製造過程で部品を仕入れるような際には、当該製造業が地域の発展に寄与する等の趣旨で、州が指定部品を非課税にしているようなケースです。そのような場合、製造メーカーが免除証明を部品メーカーに提供することにより、売上税支払いを回避できます。つまり、売上税抜きで部品を仕入れるとができることになります。そのような際、メーカー側(買主)は、各州指定の免除証明用様式を使用して当該免除業者(Exempt entity)である旨、証明する必要がございます。これは、売主・買主の両者とも、税務調査対応のため、疎明資料を整備しておく必要があるからです。


また、買主が最終消費者でない場合は、再販証明(Retail certificate)を売り主に対して提供することにより、請求書上に売上税の課税を免除してもらうことができます。例えば、卸売業者のように再販業者(Reseller)として仕入れて再び販売するようなケースでは、売上税を元売り業者または製造業者に支払うことなく仕入れることができます。そして、買主が売主に転じて、当該商品を転売する際に売上税相当分を次の買主(最終消費者)に請求します。再販証明も各州によって様式が異なり、事業所の所在州および顧客の所在州において、適格な州指定様式で売主に提供される必要があります。これも、後に州税務当局による税務調査の際の疎明資料として重要となるからです。





上のイラストは、免除証明と再販証明の取引例を示しています。


免除証明のケース(AとB)


1.AはBに商品・サービスを売りました。

2.Bは免除業者のため、Aに免除証明を提供しました。

3.Aは免除証明を受領したため、Bに対する請求書に売上税を計上しませんでした。

4.Bは商品の支払いの際、Aに対して売上税を支払わずに済みました。


再販証明のケース(CとD)


1.CはDに商品・サービスを売りました。

2.Dは再販業者であったため、Cに再販証明を提供しました。

3.Cは再販証明を受領したため、Dに対する請求書上に売上税を計上しませんでした。

4.Dは商品・サービスの支払いの際、Cに対して売上税を支払わずに済みました。

5.Dは商品・サービスを自身の顧客に売りました。


売上税課税の根拠とネクサス


売上・使用税は、連邦政府(国)から完全に独立した各州税務当局により課税されますので、事業主は、当該税務当局規定の州税法に則って、売上税の申告要否を判断しなければなりません。たいていの場合、課税の有無は、当該州にネクサス(Nexus=因果関係)と呼ばれる課税に関する要素を事業主が有しているか否か、または発生させているか否かで判断されます。(注:売上税と法人税のネクサス要素は若干異なります)


売上税のネクサスは次の7つの要素に大別されます。


1. 物理的所在(Physical presence)

2. 下限を超える売上(Sales above threshold)

3. オンライン照会(On-line referral)

4. アフィリエイト(Affiliates)との事業関連性(Business relationships)

5. 遠隔従業員(Remote employees)

6. 直送業者との契約(Drop shipping relationship)

7. 催しの開催(Trade show etc.)


物理的所在(Physical Presence)は、事務所・倉庫・営業所等の建物の保有や賃借が主な例で、棚卸資産(Inventory)を賃貸倉庫に保有することも含みます。最も代表的なネクサスの要素です。


売上については、各州がある一定金額を超える額を州内で計上した場合やある一定の取引数を超えた場合にネクサス認定となるもので、経済的因果関係(Economic nexus)とも呼ばれています。現在最も主流となりつつあるネクサスの要素です。最高裁判所(Supreme court)で2016年に出された判例(South Dakota vs. Wayfair)により、2020年現在、ほとんどの州(約40州)が課税の基準として採用しています。基準となる売上額は$100,000から$500,000、取引回数は100回または200回と、州によって下限額が様々に異なります。


オンラインの照会とは上記の経済的因果関係とも密接に関連しますが、ウェブサイトでクリックをして売上に繋がった場合には、当該顧客在住州にネクサスがあるとする概念で、アフィリエイトは、インターネット上のそれに限らず、事業上関連業者が在住する州にネクサスがあるという概念です。


他州で電話連絡で働いている従業員、個人業者、商品の運搬を依頼している業者との契約、他州で催されたイベントや会議などもネクサスとなる場合がございます。


一般的には、事業主が州内に上記ネクサス(Nexus=因果関係)を持たなければ、当該州の売上使用税の申告納付義務は無いと言えます。もっとも、上記項目1と2が無ければ、項目3以降の事象もほぼ可能性として無いはずで、その意味に置いて、州内に相当規模の物理的所在(Physical Presence)を確認できる施設(事務所・社有倉庫・営業所等)が無いか、売上が一定金額を超えない限り、申告納付義務は無い場合が多いということになります。


しかし、昨今インターネットを通じたオンラインでの販売が定着し増加していくに従い、各州の売上税課税に対する姿勢はどんどん積極的になっていて、納税者側はきっちりとした対応を迫られていると言えます。課税の判断は複雑で、専門家への相談が欠かせないでしょう。


もう1点注意事項としては、連邦税の課税判断との関係です。各州ネクサスの概念は、管理(Management)場所の有無等、恒久的施設(Permanent establishment=PE)を中心とした連邦税上の概念とも異なる視点になります。従いまして、連邦(国)レベルで課税とならない場合にでも、各州レベルで課税になる可能性も高く、事業内容に応じた分析が必要になります。


さらに、現在のところ、ハワイ、ミネソタ、ヴァージニア、ワイオミングの各州では、社有倉庫ではなく賃借倉庫(Public Warehouse)に商品や製品を保管するケースでは、原則的にはネクサス発生要因となりませんが、その他の州ではその限りではありません。Eコマースに従事されている事業主は要注意です。


売上・使用税の申告実務


売上・使用税の申告書は期日までに各州税務当局に提出し、必要な納付を済ませないといけません。多くの州では、様式を記入作成して小切手と共に郵送するという申告方式に加え、インターネットを通じたウェブサイトでの申告納付方式を整備しています。多くの企業・事業主は、ウェブサイトで申告納付を済ませることが多く、安全で確実かつ迅速に処理できています。


企業や事業主が事業を開始された最初の課税年度では、多くの州で年次での申告納付が認められていますが、次年度以降は、申告納付する税額や課税額によっては、四半期ごとや月次での申告納付になることもあります。多くの州では、初年度申告の納付税額によって申告頻度を決定し、通知書(Notice)により納税者に伝えます。納付税金が多いほど頻度が高くなります。多額の税金の場合には月次で、それよりも少ない額であれば、四半期ごとや年次ごとにということになります。


申告書様式は各州所定のものがあり、当該様式を使用して申告納付を行う必要があります。複数の州に申告納付する事業主は、申告納付実務の負担が大きくなります。ソフトウェア―を使用して、効率良く申告納付や申告書作成ができるように工夫が必要になります。一方、売上税や使用税の申告納付がほとんど必要の無い企業や事業主は、急に必要になった申告にかえって手立てに困られることもあります。罰金や延滞利息の負担に繋がらないように、専門家への早期の相談が必要でしょう。



米国税務に関する
ご依頼・お見積り



お問合せください!











源泉所得税
Withholding tax





アメリカの源泉徴収税務は、米国税務の中でもあまり知られていない領域です。しかしながら、日系企業や日本人投資家にとられましては、避けては通れない重要な税務となっています。米国には、税務上3種類の源泉徴収があります。


1.賃金からの源泉徴収(Withholding on wages)

2.外国人への支払いからの源泉徴収(Withholding on payments to foreign persons)

3.補完的源泉徴収(Backup withholding)


上記の項目1は、賃金・給与から差し引かれる雇用税の範疇ですので、先に解説差し上げた「従業員の給与計算」や「雇用税」の箇所をご参照ください。ここで取り上げるのは、雇用関連の源泉所得税ではなく、賃金・給与以外の所得からの源泉徴収税です。項目2は、日系の方々にとって、日米の国境を越えた取引上、とても重要な留意点となっています。項目3は、アメリカ国内で事業を営む企業や事業主なら、少なからず携わっている煩雑な税務です。以下、順を追ってご説明差し上げます。


米国外へ支払う際の源泉所得税対象所得


個人・法人を含む外国人(Foreign person)がアメリカ国内を起因とした所得(米国源泉所得=U.S. source income)を得た場合、アメリカから送金される際に原則的に30%の源泉所得税を差し引かれた後、外国で受け取ることになります。ただし、日本の居住者(米国非居住者)のように、アメリカが日米租税条約を締結している国の外国人は、一部の所得について、軽減税率(Reduced tax rate)の適用や免除措置(Exemption)があります。


内国歳入法の所得税に関する規定の中には、通常の課税を規定した箇所の他に、外国人や外国法人の源泉所得税を規定した3章(Chapter 3)や外国にある金融機関口座について規定した4章(Chapter 4)があります。この規定により、アメリカで源泉徴収される税金に関しては、減免されたものも含めて開示申告納付が義務付けられています。


恒久的施設(Permanent establishment=PE)を米国内に構えて事業を営んでいる企業は、一般的には米国税務申告納付を行っているはずで、源泉徴収の必要はありません。一方、日本から米国への投資関連取引によって、非居住者(Non-resident alien)の個人・法人・パートナーシップを含む外国人として所得を得た場合には、アメリカから日本への送金の際に源泉徴収されます。


源泉所得税の対象になる所得は、一般的には、米国源泉の定額・確定・年次・定期所得( U.S. source fixed or determinable annual or periodical (FDAP) income)です。通称「FDAP所得」と呼ばれていますが、名称は性格的意味合いが強く、一定の期間ごとに定額で支払われることが多いというぐらいのニュアンスで、限定的ではありません。米国の事業や取引に実質的に関連する所得(Effectively connected income=ECI)ではない所得がほとんどで、代表的なものは、以下が挙げられます。IRSが発行している刊行物515ー非居住者外国人と外国企業の源泉所得税(Withholding of Tax on Nonresident Aliens and Foreign Entities - Publication 515)には、さらに多くの例が列記されています。


● 利子(Interest)

● 配当(Dividend)

● 使用料(Royalty)

● 不動産賃貸料(Real property rent)

● 割引発行債券(Original issue discount)

● 年金(Pension and annuities)

● 個人及び個人事業主の役務に支払われた報酬(Compensation for personal services paid to an individual or a sole proprietorship)


上記の利子は、米国の借主が支払うローン利子で、配当は米国法人から日本の親会社や株主に支払われる配当が含まれます。使用料は、米国で許可されている、著作権(Copyright)特許(Patent)や商標(Trade mark)等の無形資産を使用する際に支払われるものが含まれます。不動産賃貸料は、米国内の不動産から得られる賃貸収入です。


アメリカ外国源泉徴収税率と日米租税条約


原則的に30%の源泉徴収税率は、日米租税条約(US-Japan income tax treaty)により減免されています。2019年に米国議会で批准されたことにより、利子や配当の源泉徴収税率はさらに軽減されました。以下は、主なFDAP所得の日米間における源泉徴収税率です。





上記配当の持分割合が50%以上の区分の場合、保有期間も6ヶ月以上という条件があります。


アメリカ外国源泉所得税の申告納付実務


日米租税条約上の軽減税率や免除措置を適用するには、定められた申告納付実務が必要になります。一般的には源泉徴収代理人(Withholding agent)となる支払者(Payer)と米国外で所得を受け取る受取者(Recipient)の両方に一定の申告義務が発生します。また、米国(支払者)側では、規定の期日内に源泉所得税を納付する必要もございます。実際の送金手続きや納付手続きも含めた手順は、概ね次のようになります。


1.受取者がForm W-8(W-8BEN, W-8BEN-E, W-8ECI, W-8IMY, W-8EXPのいずれか)を支払者に提供する。

2.支払者は受取者からのW-8の情報を基に、源泉徴収の有無を確認して米国外へ送金する。

3.支払者は、送金と同時にForm 1042-Sを発行して、受取者に提供する。

4.支払者は、源泉徴収税額がある場合には、支払後、規定の期日内に税金をIRSに納付する。

5.支払者は、課税年度内の支払いについて、源泉所得税額をまとめ、Form 1042をIRSに申告する。

6.受取者が租税条約上の立場(Position)を開示するため、必要であれば外国法人税申告書をIRSに提出する。


上記各項目について、以下、項目ごとに解説します。


源泉所得税に関する証明書(Form W-8)について


5種類の様式がございます。以下、各々該当する様式についての解説です。


米国源泉所得税報告のための恩典享受者証明書(Certificate of Status of Beneficial Owner for United States Tax Withholding and Reporting=Form W-8BEN)は、個人の方が海外で受取者になる場合に支払者に提供します。また企業であれば、米国源泉所得税報告のための恩典享受者証明書(企業用)(Certificate of Status of Beneficial Owner for United States Tax Withholding and Reporting (Entities)=Form W-8BEN-E)を提供します。これは、租税条約上の恩典の有無にかかわらず、締約国の受取者は締約相手国の支払者に提供しなければなりませんが、もし税率の軽減や免除などの恩典がある場合には、提供が必須になります。この様式を提供しなければ、軽減税率の恩典があるにもかかわらず、規定の30%の源泉所得税が差し引かれてしまいます。あくまでも米国外の受取者に開示告知義務があり、支払者に義務はありません。従いまして、当該W-8提供の要請があった場合には、受取者は速やかに提供することが必要です。


外国人の米国内事業に実質的に関連する所得がある旨の証明書(Certificate of Foreign Person's Claim That Income Is Effectively Connected With the Conduct of a Trade or Business in the United States=Form W-8ECI)は、外国人である受取者に、米国内源泉所得が実質的に米国内事業に関連する所得があり、FDAP所得が無い旨を証明する様式です。これにより、当該受取者は米国内で該当する米国税務申告書(個人の場合Form 1040NR、法人の場合Form 1120-F)を提出していることになります。従いまして、支払者の方は源泉徴収をする必要がなくなります。
米国源泉徴収税報告のための外国仲介者、外国導管事業体、米国支店の証明書(Certificate of Foreign Intermediary, Foreign Flow-Through Entity, or Certain U.S. Branches for United States Tax Withholding and Reporting=Form W-8IMY)は、受取者が外国パートナーシップや外国企業の米国内支店の場合に、受取者側が準備する様式です。米国のパートナーシップやLLCなどは該当しません。


米国源泉所得税報告のための外国政府及び外国団体の証明書(Certificate of Foreign Government or Other Foreign Organization for United States Tax Withholding and Reporting=Form W-8EXP)は、受取者が外国政府や外国団体の場合に、受取者側が準備する様式です。政府には中央銀行も含まれ、団体には外国非課税団体(Foreign tax-exempt organization)や外国私的財団(Foreign private foundation)などが含まれます。


IRSに対する疎明資料として署名日付記入済みのW-8を取得した上で、支払者は送金の手続きに入ります。W-8の有効期間は通常3年目の過前年度終了日になるので、期限が切れている様式であれば、新たに取得する必要がございます。


外国人の源泉徴収対象米国源泉所得の発行


外国人の源泉徴収対象米国源泉所得(Foreign Person's U.S. Source Income Subject to Withholding= Form 1042-S)は、米国外の受取者に送金した金額や源泉徴収税額について報告する様式です。支払者が受取者に対して発行し、各々受取者別に取引別に提供します。大企業では、かなりの数の当該様式を国外の受取者に提供します。


アメリカ外国源泉所得税の納付


外国人のために源泉徴収された税金は、米国外への送金から一定期間内にIRSに納付されなければなりません。納付は支払者である源泉徴収代理人(Withholding agent)がおこないます。納付は、必ず連邦電子税金納付システム( Electronic Federal Tax Payment System=EFTPS)によって処理される必要がございます。源泉徴収税額の大小によって次の期日区分に分れます。


1.年度末未納額が$200未満の場合、次年度の毎年3月15日まで

2.毎月々の未納額が月末時点で$200以上$2,000未満の場合、月末から15日以内

3.毎月次四半期の未納額が月次四半期末で$2,000以上の場合、月次四半期末から3日以内


上記の「月次四半期末」とは、毎月を四半期に分けることから、毎月7日目、15日目、22日目、月末がそれぞれ月次四半期末になります。期日内までに納付が無ければ、罰金と延滞利息の対象となります。


源泉所得税の年次申告


外国人の年次源泉所得税申告書(Annual Withholding Tax Return for U.S. Source Income of Foreign Pers Form 1042)は、支払者によって、課税年度内に支払ったすべての外国人の源泉徴収対象米国源泉所得(Foreign Person's U.S. Source Income Subject to Withholding= Form 1042-S)を添付して申告します。これは源泉徴収代理人(Withholding agent)が年間のすべての支払いについて申告するものです。IRSに対して提出します。


特典制限条項による開示


受取者が外国法人で、次の条件に合致する場合、IRSに対する開示義務があります。


● Form 1042-Sによって米国源泉所得が報告されていない場合

● 租税条約上の恩典を享受した所得が$10,000を超える場合で、条件に合致した場合

● 米国源泉徴収税の免除や軽減税率の提供を受けた場合で、米国関連者からの受取額が$500,000を超える場合


上記に該当する場合には、内国歳入法6114条の租税条約上のポジション開示(Treaty-Based Return Position Disclosure Under Section 6114 or 7701(b)=Form 8833)を外国法人税申告書(Form 1120-F)に添付して情報開示します。租税条約上の恩典享受により、軽減税率が適用されたり免税になった場合には、その旨Form 8833に示し、その根拠となる租税条約の条項について開示します。これを怠ると罰金の対象になります。





その他の米国税務・コンプライアンス
Other U.S. taxes & compliance





上記に述べて参りました米国税務の各項目に加え、アメリカには他にも様々な税務があります。また、税務とは少々性格が異なるものの、アメリカの連邦や各州に対して開示・申告する報告書・申告書もございます。すべてを網羅することは、当ホームページの限界からはほぼ不可能ですが、ここでは次の項目について付加的にかいつまんで述べておきます。


1.事業登録税(Business registration tax)

2.消費・物品税(Excise tax)

3.米国商務省報告書(Department of commerce report)

4.未請求資産(Unclaimed property)


事業登録税(Business tax or business registration tax)


単に事業税(Business tax)と呼ばれることも多い事業登録税は、各州・郡・市などのローカル自治体の事業登録を更新するため、毎年や隔年など定期的に申告納付が義務付けられています。自治体によっては、登録更新料(Registration renewal fees)のように、税金の扱いではなく登録手数料の更新扱いになっているところもあります。申告の形式ではなく、単にホームページ上で簡単なデータの更新と定額の手数料を支払えば、自動更新できる自治体もあります。


「事業登録税」や「更新手数料」などの呼称はともかく、定期的な更新の際に、ある程度の財務データの記入と共に申告書の提出が必要な自治体が多数を占めます。データとしては、売上規模、資本金額の推移、自治体単位の財務諸表(貸借対照表や損益計算書)の表示など、自治体によって様々です。


物品・消費税(Excise tax)


特定のモノ(Goods)や役務(Services)に一定の税率を乗じて四半期ごとに納付する連邦税で、以下の項目が課税品目・課税役務として主な税目となっています。


● 環境税(Environment tax)ー 国内鉱油(Domestic petroleum oil spill tax)、オゾン破壊薬品(Ozone-depleting chemicals (ODCs) )、輸入オゾン破壊薬品(ODC tax on imported products)等

● 交信・航空運輸税(Communications and Air Transportation Taxes)ー 乗客航空運輸(Transportation of persons by air)、貨物航空運輸(Transportation of property by air)、 Use of international air travel facilities

● 燃料税(Fuel tax)ー ディーゼル(Diesel)や灯油(Kerosene)等

● 小売税(Retail tax)ー トラック、トレーラー、トラクター等の販売にかかる税(Truck, trailer, and semitrailer chassis and bodies, and tractor)

● 船舶乗客税(Ship passenger tax)- 水路を使った運輸(Transportation by water)

● その他の消費税ー登録様式に無い契約(Obligation not in registered form)等

● 外国保険税(Foreign insurance tax)ー損害保険と損害保証契約(Casualty insurance and indemnity bonds)、生命保険契約(Life insurance, sickness and accident policies, and annuity contracts )、再保険(Reinsurance)

● 製造業者税ー石炭(Coal)、タイヤ(Tires)、ワクチン(Vaccines)等

● 患者関連研究費ー特殊健康保険(Specified health insurance policies)、自己健康保険(Applicable self-insured health plans)

● 釣竿(Fishing rods and fishing poles)等の魚釣り関連用具

● 室内日焼けサービス(Indoor tanning services)

● 燃料として使用されなかったバイオディーゼル(Biodiesel sold as but not used as fuel)


該当するモノや役務の販売・購入に携っている企業や事業主は、四半期ごとに申告する形式で、四半期連消費税申告書(Quarterly Federal Excise Tax Return=Form 720)を期日までに提出します。Form 720には、納付する税金の計算に加え、Tax Credits(税控除額)として差し引ける控除額を計算する箇所もあり、購入した金額の正確な把握が必要です。税額控除の項目には以下が挙げられます。


● ガソリンの非課税使用(Nontaxable Use of Gasoline)等

● 灯油の非課税使用(Nontaxable Use of Kerosene)等

● 未染色ディーゼル燃料の非課税使用(Nontaxable Use of Undyed Diesel Fuel )等

● 未染色灯油の非課税使用(Nontaxable Use of Undyed Kerosene)等

● 灯油の航空業使用(Kerosene Used in Aviation)等

● 代替燃料の非課税使用(Nontaxable Use of Alternative Fuel )ー プロパンガス(Liquefied petroleum gas=LPG)、圧縮天然ガス(Compressed natural gas=CNG)、バイオマス燃料(Liquid fuel derived from biomass)、液化天然ガス(Liquefied natural gas=LNG)等


上記のように、概して、環境を破壊するモノや役務の使用消費については税金を課し、自然に優しく環境を守るモノや役務の使用消費については、控除を可能にしているという傾向もあります。なお、上記の非課税使用(Nontaxable use)とは、以下のものが含まれます。


● 農園での農業目的(On a farm for farming purposes)

● 高速道路上以外での事業使用(Off-highway business use)

● 輸出での使用(Export)

● 商業漁業上の船舶での使用(In a boat engaged in commercial fishing)

● 都市間バスでの使用(In certain intercity and local buses)

● 適格な地方バスでの使用(In a qualified local bus)

● 学生や従業員のためのバス運輸(In a bus transporting students and employees of schools)

● ディーゼルと灯油の使用(For diesel and kerosene)

● 外国貿易での使用(In foreign trade)

● ヘリコプターでの使用(Certain helicopter and fixed-wing aircraft uses)

● 適格献血機関のための特殊使用(Exclusive use by a qualified blood collector organization )

● 非営利の教育期間の特殊使用(Exclusive use by a nonprofit educational organization)

● その他、政府・軍隊・博物館の使用(United states government, Military, Museum)


Excise taxは、年間を通じて3月、6月、9月、12月の月末が四半期末となり、4月30日、7月31日、10月31日、1月31日が各四半期の申告期日となります。また、燃料税控除額の申告部分については、四半期末の申告(申請)が困難な場合や期日までに申告できなかった場合には、企業の年度末の所得税申告書や法人税申告書等に連邦燃料税額控除(Credit for Federal Tax Paid on Fuels=Form 4136 )を添付して申請できます。


米国商務省報告書(Department of commerce report)


アメリカの商務省(Department of commerce)は、内国歳入庁(IRS)などを管轄する財務省(Department of treasury)とは異なる政府省庁です。主に、企業や国民から世論調査を取ったり各種調査報告書の回収により、国の統計を作成して経済政策の指針を策定する省庁です。様々な報告書提出を企業や投資家に義務付けていますが、中でも経済分析庁(Bureau of Economic Analysis=BEA)は、日系企業に大きく関連する庁です。


BEAでは、海外からの投資に基づく米国内の事業について、様々な観点から調査を行っており、比較的大規模な投資と大企業に対しては、報告書の提出を義務付けています。以下のような報告書があります。


● 外国直接投資調査(New foreign direct investment survey=BE-13)

● 四半期調査(Quarterly survey=BE-605)

● 年次調査(Annual survey=BE-15)

● 基準調査(Benchmark survey=BE-12)


上記の報告書のうちBE-13は、外国から米国企業の持分保有が10%以上で、かつ米国企業の取得価額(Acquisition cost)が$3 millionを超える場合に提出義務があります。米国内企業の設立または買収時から45日以内に提出する必要がございます。海外関連会社の情報や持分保有状況、加えて資産や負債の規模などの情報を開示します。


BE-605(総資産、売上、利益・損失が$60 millionを超える企業が四半期末から30日以内に申告要)は、四半期ごとに外国関連会社や親会社との取引内容を開示します。BE-12(5年に一回。5月31日が期日。総資産、売上、利益・損失が$300 millionを超える企業)及びBE-15(毎年5月31日が期日。総資産、売上、利益・損失が$300 millionを超える企業)も各国との取引規模や関係会社の持分保有状況の現状を開示します。BE-12を申告しなければならない企業は、その年のBE-15の申告は必要ありません。


申告未済の場合$2,500から$25,000の罰金の可能性があり、期日までの申告が必須です。


未請求資産(Unclaimed property)


未請求資産はアメリカ特有の制度で、米国内の各州が管轄しています。税金ではないため、各州では財務部門(Treasury department)や経理出納管理者(Controller)等が直接管理していて、税務当局(Tax authority)が担当部署にはなっていません。従って税務とは異なるものの、申告して納付するという義務も企業側にはあり、税務申告と似た業務となります。


未請求資産とは、事業取引上で生じた不明な資産残高を言います。小切手や売掛金・買掛金など、正当な権利者が不明になってしまった資産残高のことで、本来の権利者が行方不明になったり、支払いや受取りの際に誤差となって取引者間で浮いてしまった場合が原因として想定できます。特に取引数の多い大企業では、頻繁に不明残高が発生し、都度、未請求資産計上を検討する必要が出てきます。


未請求資産残高は、発生した期中に雑収入科目などには振替計上できず、本来の権利者を探すという詳細調査(Due diligence)を実施した後、ある一定期間、休眠期間(Dormancy period)として負債勘定科目に留めておき、その後、各州政府に対して未請求資産として納付されなければなりません。つまり、不明残高は各州政府にいったん没収(Escheat)されるということになります。資産科目や各州法上の取り扱いの違いにより休眠期間は様々ですが、小切手、売掛金、買掛金などの一般科目であれば、1年から5年となっています。会計上は、1年以内に没収される未請求資産を流動負債(Current liabilities)、1年を超えるものを固定負債(Long-term liabilities)に計上しておきます。


以下、権利者不明になった小切手や浮いてしまった買掛金残高の誤差を例に取って、処理の手順を述べてみましょう。


たとえば、退職従業員への最終賃金支払いのために振り出した小切手が銀行において現金化されず、ずっと未処理(Outstanding)のまま未取付の状態が継続し、連絡をしても引っ越してしまって行方不明だったような場合、この小切手は、本来の持主が分かっていながら手渡すことが出来なくなり、いわば放棄されれた(Abandoned)状態になります。このようなケースにおいては、企業ではいったん期日延滞小切手(Stale dated check)として会計上の処理をしなければなりません。アメリカの小切手の支払有効期限は通常6ヶ月間と長いですが、これを超えて延滞するような場合には、小切手をいったん現金勘定に戻し、費用科目も戻し計上(Reverse back)します。最終的に戻し計上された費用は、期中に雑収入に振替えることはできません。当該元従業員の所在した最後の住所地に、未請求資産として納付する旨告知する手紙を送るなど、州法上必要な手順を踏みます。これは詳細調査(Due diligence)の一環です。そして、その後なおも従業員(権利者)の消息がつかめないなど、打つ手がなくなった段階で州に対して未請求資産として納付します。ただし、州法によって規定された休眠期間が経過するまでの間は、未払い未請求資産(Accrued unclaimed property)などの負債勘定に振替えて保持していなければなりません。


一方、仕入の際に計上した買掛金について、取引相手側との話し合いの結果、支払義務が無いとのことで決着したものの、不明誤差のため雑収入計上もできず、継続的な取引相手でもなかったため後日の取引額との相殺もできなかったような場合、未請求資産として負債勘定に保留する必要があります。もちろん、休眠期間経過後は、州に納付します。


各州では、未請求資産没収の後、一定期間当該没収資産をホームページなどで公開し、持主に返還する努力をします。つまり、各州が持ち主を建前上探すことになるのですが、言い換えれば、当該資産は州に預けられて持主が現れるまで州に保管されるという意味合いにもなります。その後、一定期間持主が現れなかった場合、あるいは、持主が自身の資産であると請求しなかった場合、各州に永久的に没収(Permanent escheatment)されることになります。つまり、最終的には州政府に接収されることになります。各州によって、没収から永久的没収までの期間は様々ですが、5年間と短い州もあれば、30年間などと長い期間を設定している州もあります。この永久的没収については、現在アメリカの法曹界で権利の問題として盛んに議論されています。


未請求資産の申告納付手順は以下の通りとなります。


1.各州の休眠期間(Dormancy period)について資産ごとに確認し、各州の各未請求資産を認識する。

2.詳細調査(Due diligence)につき、州規定下限額を超える調査必要資産の調査有無について確認する。

3.詳細調査が未済の場合、申告納付前に、手紙送付などの州法規定の手順を踏む。

4.各州が規定している一定金額未満の各資産については、総額でまとめた(Aggregate)資産とする。

5.各州につき、未請求資産が無い旨の申告書(Negative report)の申告書提出が必要か否かを確認する。

6.上記確認後、該当する各未請求資産につき、適格な申告書で各州に申告納付する。


まず、取引相手の最終住所地を基準において、各々申告州として認識します。その上で各州・各資産で全く異なる休眠期間を確認します。詳細調査が未済であるならば、州規定の手紙内容を送るなどする必要があります。


申告書作成段階では、極めて少額の差異が原因で個別の未請求資産となることもあります。例えば、買掛金や売掛金の取引相手との認識の差額が$1未満であることも多々あり、そのような場合に、個々の未請求資産として申告書を作成すると、個別未請求資産がかなりの数になることもあります。各州では、そのようなわずかな金額の未請求資産が膨大な数になることを防ぐため、まとめて申告納付しても良い個別金額を規定しています。そのような総額申告可能金額(Aggregate amount)はすべてまとめて各州に申告納付します。


未請求資産が無くても申告だけはしなくてはならないと規定している州もあり、そのような場合には、未請求資産が無い旨の申告書(Negative report)を作成して各州当局に提出する必要がございます。各州のNegative reportの申告要否について確認し、申告漏れが無いように注意します。


申告書は、各州指定の様式でないといけない州と、全国未請求資産管理者連盟(National Association of Unclaimed Property Administrators=NAUPA)が発行する様式を使用しても良い州があります。NAUPAは、米国内のすべての州とワシントンD.C.(District of Columbia)やプエルトリコなどの属領地も加盟しているため、多くの州でNAUPAの申告様式が使用できますが、まだ州指定様式を使用しなければならない州も残っています。各州のホームページで確認をして正しい申告納付を心掛けましょう。


納付の際には、小切手やその他の方法で行いますが、カリフォルニア州のように、当初は申告のみで、その後、州の承認後、納付金額を納付するなど、特殊なケースもあり、各州について申告方法を確認しましょう。



米国税務に関する
ご依頼・お見積り



お問合せください!