上記に述べて参りました米国税務の各項目に加え、アメリカには他にも様々な税務があります。また、税務とは少々性格が異なるものの、アメリカの連邦や各州に対して開示・申告する報告書・申告書もございます。すべてを網羅することは、当ホームページの限界からはほぼ不可能ですが、ここでは次の項目について付加的にかいつまんで述べておきます。
1.事業登録税(Business registration tax)
2.消費・物品税(Excise tax)
3.米国商務省報告書(Department of commerce report)
4.未請求資産(Unclaimed property)
事業登録税(Business tax or business registration tax)
単に事業税(Business tax)と呼ばれることも多い事業登録税は、各州・郡・市などのローカル自治体の事業登録を更新するため、毎年や隔年など定期的に申告納付が義務付けられています。自治体によっては、登録更新料(Registration renewal fees)のように、税金の扱いではなく登録手数料の更新扱いになっているところもあります。申告の形式ではなく、単にホームページ上で簡単なデータの更新と定額の手数料を支払えば、自動更新できる自治体もあります。
「事業登録税」や「更新手数料」などの呼称はともかく、定期的な更新の際に、ある程度の財務データの記入と共に申告書の提出が必要な自治体が多数を占めます。データとしては、売上規模、資本金額の推移、自治体単位の財務諸表(貸借対照表や損益計算書)の表示など、自治体によって様々です。
物品・消費税(Excise tax)
特定のモノ(Goods)や役務(Services)に一定の税率を乗じて四半期ごとに納付する連邦税で、以下の項目が課税品目・課税役務として主な税目となっています。
● 環境税(Environment tax)ー 国内鉱油(Domestic petroleum oil spill tax)、オゾン破壊薬品(Ozone-depleting chemicals (ODCs) )、輸入オゾン破壊薬品(ODC tax on imported products)等
● 交信・航空運輸税(Communications and Air Transportation Taxes)ー 乗客航空運輸(Transportation of persons by air)、貨物航空運輸(Transportation of property by air)、 Use of international air travel facilities
● 燃料税(Fuel tax)ー ディーゼル(Diesel)や灯油(Kerosene)等
● 小売税(Retail tax)ー トラック、トレーラー、トラクター等の販売にかかる税(Truck, trailer, and semitrailer chassis and bodies, and tractor)
● 船舶乗客税(Ship passenger tax)- 水路を使った運輸(Transportation by water)
● その他の消費税ー登録様式に無い契約(Obligation not in registered form)等
● 外国保険税(Foreign insurance tax)ー損害保険と損害保証契約(Casualty insurance and indemnity bonds)、生命保険契約(Life insurance, sickness and accident policies, and annuity contracts )、再保険(Reinsurance)
● 製造業者税ー石炭(Coal)、タイヤ(Tires)、ワクチン(Vaccines)等
● 患者関連研究費ー特殊健康保険(Specified health insurance policies)、自己健康保険(Applicable self-insured health plans)
● 釣竿(Fishing rods and fishing poles)等の魚釣り関連用具
● 室内日焼けサービス(Indoor tanning services)
● 燃料として使用されなかったバイオディーゼル(Biodiesel sold as but not used as fuel)
該当するモノや役務の販売・購入に携っている企業や事業主は、四半期ごとに申告する形式で、四半期連消費税申告書(Quarterly Federal Excise Tax Return=Form 720)を期日までに提出します。Form 720には、納付する税金の計算に加え、Tax Credits(税控除額)として差し引ける控除額を計算する箇所もあり、購入した金額の正確な把握が必要です。税額控除の項目には以下が挙げられます。
● ガソリンの非課税使用(Nontaxable Use of Gasoline)等
● 灯油の非課税使用(Nontaxable Use of Kerosene)等
● 未染色ディーゼル燃料の非課税使用(Nontaxable Use of Undyed Diesel Fuel )等
● 未染色灯油の非課税使用(Nontaxable Use of Undyed Kerosene)等
● 灯油の航空業使用(Kerosene Used in Aviation)等
● 代替燃料の非課税使用(Nontaxable Use of Alternative Fuel )ー プロパンガス(Liquefied petroleum gas=LPG)、圧縮天然ガス(Compressed natural gas=CNG)、バイオマス燃料(Liquid fuel derived from biomass)、液化天然ガス(Liquefied natural gas=LNG)等
上記のように、概して、環境を破壊するモノや役務の使用消費については税金を課し、自然に優しく環境を守るモノや役務の使用消費については、控除を可能にしているという傾向もあります。なお、上記の非課税使用(Nontaxable use)とは、以下のものが含まれます。
● 農園での農業目的(On a farm for farming purposes)
● 高速道路上以外での事業使用(Off-highway business use)
● 輸出での使用(Export)
● 商業漁業上の船舶での使用(In a boat engaged in commercial fishing)
● 都市間バスでの使用(In certain intercity and local buses)
● 適格な地方バスでの使用(In a qualified local bus)
● 学生や従業員のためのバス運輸(In a bus transporting students and employees of schools)
● ディーゼルと灯油の使用(For diesel and kerosene)
● 外国貿易での使用(In foreign trade)
● ヘリコプターでの使用(Certain helicopter and fixed-wing aircraft uses)
● 適格献血機関のための特殊使用(Exclusive use by a qualified blood collector organization )
● 非営利の教育期間の特殊使用(Exclusive use by a nonprofit educational organization)
● その他、政府・軍隊・博物館の使用(United states government, Military, Museum)
Excise taxは、年間を通じて3月、6月、9月、12月の月末が四半期末となり、4月30日、7月31日、10月31日、1月31日が各四半期の申告期日となります。また、燃料税控除額の申告部分については、四半期末の申告(申請)が困難な場合や期日までに申告できなかった場合には、企業の年度末の所得税申告書や法人税申告書等に連邦燃料税額控除(Credit for Federal Tax Paid on Fuels=Form 4136 )を添付して申請できます。
米国商務省報告書(Department of commerce report)
アメリカの商務省(Department of commerce)は、内国歳入庁(IRS)などを管轄する財務省(Department of treasury)とは異なる政府省庁です。主に、企業や国民から世論調査を取ったり各種調査報告書の回収により、国の統計を作成して経済政策の指針を策定する省庁です。様々な報告書提出を企業や投資家に義務付けていますが、中でも経済分析庁(Bureau of Economic Analysis=BEA)は、日系企業に大きく関連する庁です。
BEAでは、海外からの投資に基づく米国内の事業について、様々な観点から調査を行っており、比較的大規模な投資と大企業に対しては、報告書の提出を義務付けています。以下のような報告書があります。
● 外国直接投資調査(New foreign direct investment survey=BE-13)
● 四半期調査(Quarterly survey=BE-605)
● 年次調査(Annual survey=BE-15)
● 基準調査(Benchmark survey=BE-12)
上記の報告書のうちBE-13は、外国から米国企業の持分保有が10%以上で、かつ米国企業の取得価額(Acquisition cost)が$3 millionを超える場合に提出義務があります。米国内企業の設立または買収時から45日以内に提出する必要がございます。海外関連会社の情報や持分保有状況、加えて資産や負債の規模などの情報を開示します。
BE-605(総資産、売上、利益・損失が$60 millionを超える企業が四半期末から30日以内に申告要)は、四半期ごとに外国関連会社や親会社との取引内容を開示します。BE-12(5年に一回。5月31日が期日。総資産、売上、利益・損失が$300 millionを超える企業)及びBE-15(毎年5月31日が期日。総資産、売上、利益・損失が$300 millionを超える企業)も各国との取引規模や関係会社の持分保有状況の現状を開示します。BE-12を申告しなければならない企業は、その年のBE-15の申告は必要ありません。
申告未済の場合$2,500から$25,000の罰金の可能性があり、期日までの申告が必須です。
未請求資産(Unclaimed property)
未請求資産はアメリカ特有の制度で、米国内の各州が管轄しています。税金ではないため、各州では財務部門(Treasury department)や経理出納管理者(Controller)等が直接管理していて、税務当局(Tax authority)が担当部署にはなっていません。従って税務とは異なるものの、申告して納付するという義務も企業側にはあり、税務申告と似た業務となります。
未請求資産とは、事業取引上で生じた不明な資産残高を言います。小切手や売掛金・買掛金など、正当な権利者が不明になってしまった資産残高のことで、本来の権利者が行方不明になったり、支払いや受取りの際に誤差となって取引者間で浮いてしまった場合が原因として想定できます。特に取引数の多い大企業では、頻繁に不明残高が発生し、都度、未請求資産計上を検討する必要が出てきます。
未請求資産残高は、発生した期中に雑収入科目などには振替計上できず、本来の権利者を探すという詳細調査(Due diligence)を実施した後、ある一定期間、休眠期間(Dormancy period)として負債勘定科目に留めておき、その後、各州政府に対して未請求資産として納付されなければなりません。つまり、不明残高は各州政府にいったん没収(Escheat)されるということになります。資産科目や各州法上の取り扱いの違いにより休眠期間は様々ですが、小切手、売掛金、買掛金などの一般科目であれば、1年から5年となっています。会計上は、1年以内に没収される未請求資産を流動負債(Current liabilities)、1年を超えるものを固定負債(Long-term liabilities)に計上しておきます。
以下、権利者不明になった小切手や浮いてしまった買掛金残高の誤差を例に取って、処理の手順を述べてみましょう。
たとえば、退職従業員への最終賃金支払いのために振り出した小切手が銀行において現金化されず、ずっと未処理(Outstanding)のまま未取付の状態が継続し、連絡をしても引っ越してしまって行方不明だったような場合、この小切手は、本来の持主が分かっていながら手渡すことが出来なくなり、いわば放棄されれた(Abandoned)状態になります。このようなケースにおいては、企業ではいったん期日延滞小切手(Stale dated check)として会計上の処理をしなければなりません。アメリカの小切手の支払有効期限は通常6ヶ月間と長いですが、これを超えて延滞するような場合には、小切手をいったん現金勘定に戻し、費用科目も戻し計上(Reverse back)します。最終的に戻し計上された費用は、期中に雑収入に振替えることはできません。当該元従業員の所在した最後の住所地に、未請求資産として納付する旨告知する手紙を送るなど、州法上必要な手順を踏みます。これは詳細調査(Due diligence)の一環です。そして、その後なおも従業員(権利者)の消息がつかめないなど、打つ手がなくなった段階で州に対して未請求資産として納付します。ただし、州法によって規定された休眠期間が経過するまでの間は、未払い未請求資産(Accrued unclaimed property)などの負債勘定に振替えて保持していなければなりません。
一方、仕入の際に計上した買掛金について、取引相手側との話し合いの結果、支払義務が無いとのことで決着したものの、不明誤差のため雑収入計上もできず、継続的な取引相手でもなかったため後日の取引額との相殺もできなかったような場合、未請求資産として負債勘定に保留する必要があります。もちろん、休眠期間経過後は、州に納付します。
各州では、未請求資産没収の後、一定期間当該没収資産をホームページなどで公開し、持主に返還する努力をします。つまり、各州が持ち主を建前上探すことになるのですが、言い換えれば、当該資産は州に預けられて持主が現れるまで州に保管されるという意味合いにもなります。その後、一定期間持主が現れなかった場合、あるいは、持主が自身の資産であると請求しなかった場合、各州に永久的に没収(Permanent escheatment)されることになります。つまり、最終的には州政府に接収されることになります。各州によって、没収から永久的没収までの期間は様々ですが、5年間と短い州もあれば、30年間などと長い期間を設定している州もあります。この永久的没収については、現在アメリカの法曹界で権利の問題として盛んに議論されています。
未請求資産の申告納付手順は以下の通りとなります。
1.各州の休眠期間(Dormancy period)について資産ごとに確認し、各州の各未請求資産を認識する。
2.詳細調査(Due diligence)につき、州規定下限額を超える調査必要資産の調査有無について確認する。
3.詳細調査が未済の場合、申告納付前に、手紙送付などの州法規定の手順を踏む。
4.各州が規定している一定金額未満の各資産については、総額でまとめた(Aggregate)資産とする。
5.各州につき、未請求資産が無い旨の申告書(Negative report)の申告書提出が必要か否かを確認する。
6.上記確認後、該当する各未請求資産につき、適格な申告書で各州に申告納付する。
まず、取引相手の最終住所地を基準において、各々申告州として認識します。その上で各州・各資産で全く異なる休眠期間を確認します。詳細調査が未済であるならば、州規定の手紙内容を送るなどする必要があります。
申告書作成段階では、極めて少額の差異が原因で個別の未請求資産となることもあります。例えば、買掛金や売掛金の取引相手との認識の差額が$1未満であることも多々あり、そのような場合に、個々の未請求資産として申告書を作成すると、個別未請求資産がかなりの数になることもあります。各州では、そのようなわずかな金額の未請求資産が膨大な数になることを防ぐため、まとめて申告納付しても良い個別金額を規定しています。そのような総額申告可能金額(Aggregate amount)はすべてまとめて各州に申告納付します。
未請求資産が無くても申告だけはしなくてはならないと規定している州もあり、そのような場合には、未請求資産が無い旨の申告書(Negative report)を作成して各州当局に提出する必要がございます。各州のNegative reportの申告要否について確認し、申告漏れが無いように注意します。
申告書は、各州指定の様式でないといけない州と、全国未請求資産管理者連盟(National Association of Unclaimed Property Administrators=NAUPA)が発行する様式を使用しても良い州があります。NAUPAは、米国内のすべての州とワシントンD.C.(District of Columbia)やプエルトリコなどの属領地も加盟しているため、多くの州でNAUPAの申告様式が使用できますが、まだ州指定様式を使用しなければならない州も残っています。各州のホームページで確認をして正しい申告納付を心掛けましょう。
納付の際には、小切手やその他の方法で行いますが、カリフォルニア州のように、当初は申告のみで、その後、州の承認後、納付金額を納付するなど、特殊なケースもあり、各州について申告方法を確認しましょう。